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三年目の同窓会

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 前向きの考えではないのは分かっている。だが、それ以上何をすればいいのか分からない。望むことが正しいのかどうか、それを思うと、必要以上に、欲を持たないようにしなければ、それでいいのだ。
「今、何が一番辛い?」
 と聞かれれば、
「孤独になること」
 と、答えるだろう。孤独は寂しさである。目の前で人が寂しいというのを見るのが辛いと思っている恵にとってみれば、譲は放っておけない人であり、自分と同じ辛さを知っている人ということで、恋愛感情を抱くようになった。それが二人して底辺で蠢いているだけだということを分かっていても、抜けることができない。
 もし、直子と別れることなく、一緒にいればどうだっただろう?
 確かに直子は譲と似たところがあって、あまり表に自分を出す方ではない。だが、誰かそばにいれば、前に進めるという前向きな気持ちは持っていた。譲と恵子では、元々の立場が違いすぎた。
 恵子からすれば、譲は、操縦しやすい相手だった。見下ろすことのできる相手だということで、自分の自由になると思っていたところ、どうやら、ミイラ取りがミイラになってしまったようなのだ。
「相手の毒気にやられた」
 油断して侮った態度で臨むと、思わぬ落とし穴に遭遇してしまう。それが恵子と譲のボタンの掛け違いになってしまったのだろう。
 そんな時、直子は黙って二人を見ているしかなかった。普段は気丈な直子だったが、さすがに好きだった譲の悩み苦しみ、そして堕落していく姿、さらに、恵子の増長し、次第に自分のわがままと相手を思いやる気持ちを忘れてしまった状況を見ていると、もう、どうでもよくなってくる気がしてきた。
――私のこれまでって何だったのかしら?
 その頃から、同窓会メンバーとは一線を画すようになり、連絡があっても、適当に答えては、行動を共にしようとは思わなかった。
 もちろん、一番目立たなかった直子を誘うなどという奇特な人は、譲くらいのものだったのだろうが、それも今ではありえない話だと思っていた。
 しかし、二人が結婚してすぐにぎこちなくなってくると、譲から、たまに連絡が入っていることがあった。携帯のメールでの連絡で、さすがに電話はしづらかったのだろう。それでも直子にすれば、
「何よ、今さら。しかもメールでなんて、本当にあの人は意気地なしなんだわ。もっとも、電話してきても出る気なんかないけどね」
 と、彼からのメールを一蹴した。
 また、さらに信じられないのは、その少し後に、今度は恵子から連絡があったことだった。
 今度は堂々と訪ねてきたので、無下に断ることもできなかったが、恵子が訪ねてきたのは、やはり譲のことであった。
 最初は、
「友達のよしみで教えてほしいの」
 と、譲のことを一番知っているはずの直子に聞いてきたのだ。
「あなたが一番あの人のことを知っていると思ってね」
 直子が聞いていて、一番腹が立ったのが、恵子のセリフの中で、譲のことを、
「あの人」
 という表現しかしないことだった。
 夫婦なのだから、それでもいいのだろうが、それも仲がいい夫婦であれば、それものろけの一つとして耳が痛いながらも許せるが、仲が悪い夫婦で、しかも彼との仲を修復したいと思っているのなら、決して、
「あの人」
 などという言い方はしないだろう。
――そういうことなのか――
 直子には何となく恵子が自分を訪れたわけが分かった気がした。
 直子に助言を求めたいというのは建前で、本当は、
「私がこんなにあの人のことで苦しんでいるのも、あなたのお下がりをあてつけられたからよ」
 とでも言いたげなのであろう。
 そう思うと、腹が立って仕方がない。
 恵子のプライドの高さは知っていたが、ここまでとは知らなかった。直子もそんな恵子を見ていて、自分の本当の性格を思い出したような気がした。
――私は、本当はプライドの高い女なんだわ。あんな譲なんかと付き合って満足しているような女でもなければ、謂れもなく、恵子に自慢されて、黙っているほどお人よしでもないわ――
 と思った。
 ある程度話を聞いたところで、
「あなたが、譲のことをどう思っているか知らないけど、私はあんな人、どうでもいいのよ。あなたも、あんな男と早く別れて、一人になればいいんじゃない? あなただったら、男なんて履いて捨てるほどいるでしょう?」
 譲のことを下げすにいながら、恵子のことも、思い切り皮肉った。その時の恵子の顔、何とも言えない表情で、
「ハトが豆鉄砲を食らった」
 という表現がピッタリだった。
 同窓会の話が持ち上がったのは、それからすぐのことで、最初に美穂から連絡があった時、ハッキリと断ればよかったのに、断ることができずに曖昧に答えたことも、直子には後悔が残った。
 結局行けずに、後から川崎から連絡がある羽目になったのだが、この時も何も言えなかった。
 もっとも、何かを話したところで一緒だったのだが、その時、やはり、同窓会メンバーとは一線を画すことが正しいのだと思ったのだ。
 直子は、ちょうどその時、仕事にも行き詰っていて、結局会社を辞めることになり、旅に出ることにした。当てのない旅で、どこに行くとも決めていない。ただ、仕事を辞めることになったタイミングが、ちょうど坂出が会社を追われたタイミングと、ほぼ同じだったというのも、偶然の皮肉だった。
 直子は、一人で旅に出ることは何度かあった。一人旅を最初にしたのは、高校を卒業してすぐだった。元々一緒に旅行する相手がいるわけでもなかったが、なぜか、付き合っていたにも関わらず、譲は直子を一緒に旅行に誘うことがなかった。
 譲自身、あまり旅行が好きではないらしい。一度直子が、
「どこか気分転換にでも、旅行に出かけない?」
 と聞いたことがあったが、
「いいよ」
 と断られた。
「どうして?」
 と聞くと、一言、
「疲れるから」
 という答えが返ってきただけだった。
 直子は、完全に意気消沈した。
――そんな答え、期待したわけじゃないのに――
 ものぐさなのは、分かっていたが、まさかここまでひどいとは思ってもいなかった。
――この人は私にとって、一体何なの?
 直子はその頃から、譲のことを疑問に思っていたのだ。
 譲も少しずつ、直子が自分に疑問を抱いていくのに気付いたようだ。
 譲という男、ルーズでいい加減なくせに、プライドは高い。自分に疑問を抱き始めた直子の態度を敏感に感じ取ると、今度は、自分から少しずつ距離を取るようになっていった。そのことは、直子にも分かっていて、お互いにぎこちなくなっているのを分かりながら、付き合っていたのだ。
 あとは、どちらが身を引くかだったが、プライドの高い譲は、なかなか身を引こうとはしない。直子も、自分のプライドに気が付き、さらに、譲に対して、少しずつ恨みも抱くようになっていった。
 不思議なことに、自然消滅というのは、そんな時に訪れるようだ。
 ぎこちない中に、何度か自然消滅のタイミングがあり、うまく落ち込めば円満に自然消滅できるのだが、タイミングを間違えると、どちらかが、傷つくことになる。
 それも、直子には分かっていた。ただ、そのことを、譲は知る由もないだろう。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次