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三年目の同窓会

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 恵子のことを好きだった男も結構いた。恵子自身、譲と結婚する前には、かなりの男性と付き合っていて、まわりから見れば、遊んでいたように見えていただろう。
「付き合う相手と、結婚相手は違うのよ」
 常々、恵子はまわりの人に、そう漏らしていたようだ。
 譲は、恵子にとっての、
「結婚相手一番候補」
 だったのだろう。
 だが、すぐに結婚したのは、驚きだった。結婚を性急にしたかったのは、譲の方だった。今までの恵子であれば、もっと慎重であってしかるべきなのに、何が恵子を結婚に駆り立てたというのだろう。
「年齢だろうか?」
 と言っても、まだまだ譲も恵子も若かった。同窓会メンバーの誰も、まだ結婚していないではないか。
 結婚は、得るものもたくさんあるが、捨てるものがたくさんある。それは、若ければ若いほど、捨てるものも多いだろう。遊ぶことは、もうできないし、それを覚悟の上での結婚であろうか。
 譲は問題ないとしても、恵子には辛いものがあるはずだ。
 男性経験が多ければ多いほど、一人に絞った時の覚悟、それは後戻りできないことを自分に言い聞かせることに繋がるのだ。
 譲にとって、恵子はそれまでに付き合った女性とは正反対の性格だった。どうして、恵子に惹かれたのか分からないが、新鮮さを求めたことには変わりない。ただ、ここまで正反対だと、新鮮さだけではない。どこか、圧迫感もあるが、今までにない雰囲気が、勢いを与えたのかも知れない。
 結婚は、確かに勢いだ。それは人から以前に聞かされていたことだったが、それは、恵子も同じだったのかも知れない。
 譲よりも、恵子の方が、結婚をしたかったようだ。それはまわりから見れば、意外だっただろう。同窓会メンバーを結婚式に呼びたくないと言ったのは、恵子の方だった。
「恥かしいから」
 というのが、理由だったが、すぐには釈然としないと思った。
 恵子のような女が恥かしいだけが理由というのは、おかしい気がする。それ以外にもう少し打算的なことがありそうだ。
 結婚してから恵子は、それまでとは違って、おしとやかになった。大人の女というよりも、高貴な女性のようで、奥さんという言葉が似合う女性になっていた。
 譲は、すっかり安心していた。恵子と結婚したことを嬉しく思い、
「これが結婚生活なんだ」
 と、新婚生活の甘い時間に酔いしれていたのだ。
 そんな譲が、どうして恵と知り合ったのか、考えてみれば不思議だ。
 結婚してから、数か月で、恵に出会った。
 恵とは、お店で出会ったわけではない、お店で出会っていれば、ここまで仲良くなったかどうか分からない。ただ、引き合っているのは間違いではないので、気持ちが通じ合えたことで、遅かれ早かれ同じ結果になっていただろう。
 恵の方が先に、譲の中にある寂しさを感じ取った。新婚で寂しさなどあるはずもないのに、そこにあるものは、新婚生活と、恵子に対して抱いているイメージとのギャップであり、そこに自分の中で殻を作ってしまった恵子に入り込むことのできない自分に苛立ちを覚え、そのせいで、譲自身も、自分の殻を作ってしまったのかも知れない。
 恵の寂しさは、譲には分かっていた。だが、すぐに気が付いたわけではなく、恵との間の殻を破るまでは、自分が恵の寂しさに気付いているという自覚がなかったのである。寂しさというのは人肌恋しさという意味であり、気持ちだけで癒されるものではなかった。結婚している譲に、恵に対して抱いた、癒してあげたいという気持ちは、不倫を促すものであるという事実を、認めさせるというのは、難しいことなのだろうか。
 恵子のプライドの高さに対して、恵の謙虚さは対照的で、新鮮さを通り越し、
――自分にとっての癒しとは何か――
 ということを思わせた。
 癒しを求めることが、不倫に繋がる。だが、今のままでは自分の自由がなくなってしまい、精神的に追い詰められると、何をするか分からない。そんな状態まで、想像すると、それ以上先を考えることができなくなってしまった。
 想像するのが怖い。一度楽な方に溺れてしまうと、抜け出すことができなくなるだろう。だが、それも恵子との結婚生活を守ろうという意識があるからで、捨ててしまえば、自由になれる。だが、自由になってしまえば、その時の自分に癒しが必要なのかを考えると、結婚に踏み切るのも怖いのだ。
 離婚してしてからの、恵と二人の生活を考えると、むず痒さを含んだ何とも言えない心地よさに包まれるが、本当に離婚してしまうと、同じ感覚を得られるかが、疑問であった。今のようなやるせなさの中で感じる妄想が、呪縛が解けてから感じるのと同じであるはずはないというのが、譲の考え方だった。
 譲は服装に無頓着だったり、あまり整理整頓を得意としていないこともあって、優柔不断なところがある。自分で分かっているだけに、最初は恵に溺れてしまう自分が怖くて、なかなか踏み込めなかったが、踏み込んでしまうと、想像通り、抜けなくなってしまった。心地よさに負けてしまい、まわりが見えなくなってしまうのだ。
 恵子との離婚もやむなしと思いながら、今の快感にのめりこむ。次第に罪の意識が薄れていくと、日々をただ過ごすだけの毎日でもよくなってくる。
 確かの日々の生活にやりがいを感じながら生活をしていたわけではないが、のめりこみ始めた最初の頃には、若干ながらの罪悪感があった。それでも、如何ともしがたい罪悪感が、日々過ごしていくうちに薄れてくると、毎日を何のために生きているのか分からなくなる。
――そんな時に、一人になりたくはない――
 その思いが、恵から離れられない理由となり、理由さえあれば、自分を納得させられる。悪循環と言っていいだろうか。
 自覚はあるのだが、どうしようもないというのが、自分から逃げていることになるのだという感覚すらない。
「今日が無事に過ぎればそれでいいんだ」
 と、考えるようになっていたが、その考えは自分だけではなく、まわりも皆同じだと思うようになった。
 そのせいであろうか。一日一日はなかなか時間が経たない気がしていたのに、一週間、一か月と単位が大きくなると、あっという間に時間が過ぎているように思う。
 恵は、最初は、譲が堕落していくのに気付かなかった。
「私のところに来てくれたんだ」
 という気持ちが強く、何よりも、自分の寂しさを埋めてくれることが嬉しかった。お互いに寂しさを埋め合えることができれば、それが一番だと思っていた。
 確かに、傷の舐めあいのようで、
「恋愛ごっこ」
 だと言われても仕方がない。
 だが、恵は自分が底辺で漂っていることを分かっていても、結局はあがいたとしても上に這い上がれるわけではないことは分かっている。恋愛ごっこであっても、誰か人のために役に立てて、自分も癒されるなら、それに越したことはないと思っていた。
 恵も毎日が違う波乱に満ちた生活を望んだりはしない。自分の立場で波乱が起これば、それは直ちに、死活問題になりかねないからだ。
「昨日と同じなら、少なくとも、今日は無事に過ごせるのよ」
 と、自分に言い聞かせていた。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次