三年目の同窓会
最近、性欲を捨てられるような気がしてきた坂出だった。そうでなければ、同じ宿に泊まってる女性がいれば、もう少しは気になるものである。最近までの坂出であれば、よほど嫌いなタイプでない限り、同じ宿に、一人旅で宿泊している女性がいて、しかも、他に宿泊客がなければ、必ず機会を探して、話しかけていたはずである。
少し、気になっているところもあるが、それが性欲に結びつくとは、今の坂出では考えられない。
一つは、恵の雰囲気が、妹の亜由子に似ているからだ。
見た目は似ていない。それは坂出が見ても、他の人が見ても、一目瞭然なのだが、坂出の視線だけから見れば、似ているところがたくさんあるのだ。
――似ているという先入観みたいなものがあるのかな?
と、感じたが、確かにそうかも知れない。
実際に、妹の亜由子とは、相当会っていないような気がする。
「最後に会ったのは、いつだったんだろう?」
まさか、その時から、しばらく会えなくなるなど、坂出にも思っていなかった。その時に、嫌な予感があったのは、どちらかというと、亜由子の方だった。
――お兄ちゃん、どこかに行っちゃうのかな?
何とも言えない寂しい顔をする亜由子。
――お兄ちゃんが、いなくなったら、私の今の精神異常を誰が治してくれるのよ。ちゃんと責任取ってよ――
と、言いたげだった。
ただ、確信があるわけではない虫の知らせのようなものがあるだけなのに、それを口に出してしまったら、坂出は、本当にどこかにいなくなってしまうかも知れないと思った。もし、いなくなってしまったら、その責任の一旦は自分にあるのだと、亜由子は思ってしまったことで、何も言えなくなったのだ。
亜由子が、自分を精神異常だと、坂出は意識していなかった。ただ、どこかおかしいとは思っていたが、それは妹として見てきた今までの亜由子が、思春期を通り越し、いよいよ大人の女になってきていることを感じたからだ。
だが、正直にいうと、坂出は、子供の頃の亜由子が好きだった。大人になった亜由子には、もう自分は必要ないという思いを抱いていたが、それは、興味がなくなってきたということを、隠そうとしている本能のようなものではないだろうか。
亜由子のことを、坂出は半分妹だという意識がなくなっていった。一人の女性として見るようになったのだが、妹だという意識が今まであったからなのか、なぜか女として見る気にはならなかった。
他にも妹がいる友達がいるが、中には、妹が女に見えてくることで悩んでいるやつもいた。坂出には本音を話せる相手ということで、相談が寄せられることも少なくはなかったが、同じように妹がいる相手ということで、相談も、しやすかったのかも知れない。
美穂を気にし始めてから、坂出は悩んでいた。
それまでであれば、好きなタイプだというわけでもなかったからだ。どちらかというと、幼い感じの女性がタイプで、美穂のような大人の女性を思わせるタイプは苦手だった。
だが、最近では、他の女性を見るたびに美穂を思い出すようになった。目が行く女性は、幼い雰囲気の、自分が好きなタイプの女性であるにも関わらず、思い出すのは美穂であった。
――美穂の雰囲気を大人っぽく見えていたのが錯覚で、実際には、幼さの残る、自分のタイプだったのかも知れない――
そう思うようになったのは、以前の自分が見ていた目に錯覚があったのかも知れないということだった。
その一番の理由が、
――どうしても、妹の亜由子と比べてしまうからだ――
他の女性がすべて大人に見えて、話しかけにくく見える。なかなか自分から話しかけられないことで、まわりから、
「あいつはストイックだからな」
と言われていたようだが、怪我の功名、それならそれでよかった。まわりから悪く言われているわけではなかったからだ。
ただ、美穂に対して好きになったと思った時は、自分でもすぐに分からなかった。分からなかったというよりも、無意識に、好きになったことを認めたくない自分がいたからに違いない。
では、なぜ、美穂を好きになってはいけないのか?
確かにリーダーとサブリーダーが恋に落ちるという話は聞いたこともあるし、悪いことではないように思うが、相手を、妹の亜由子との比較対象にしてしまうことが、引っかかっていたのだ。
美穂のことが気になり始めてすぐに、
――好きになってしまったのではないか?
と思った。
美穂の方も、自分に対して好まざる相手とは思っていないのは確かであった。嫌な相手に対しては、ハッキリとモノをいうのが美穂の性格。男っぽいと言われるかも知れないが、そこが美穂のいいところで、性格の中枢を担っているのかも知れない。
ただ、坂出は、あまり好ましくないと思っていた。
グループの中では、美穂よりも、モテる女性はいた。それが恵子だったのだが、まさか、恵子が、この宿に一緒に泊まっている恵の不倫相手である譲の奥さんになっているなど、想像もしていなかった。
ただ、
「恵子が、結婚するとしたら、俺はグループの中の誰かじゃないかって思うんだ」
と、言っていたやつがいた。
確か、川崎だったような気がする。そのことを川崎に聞くと、
「だって、恵子は僕たちの中ではアイドル的な存在だっただろう? だからそう思うんだ」
「お前はどうなんだい?」
「実は、俺、恵子のような女性と付き合っているところを想像できないんだ。だから、きっと付き合うことはないと思う」
「お前の場合は、競争率が高いと、すぐに諦めてしまうところがあるからな」
「そう思われることが多くて、自分でもずっと、そう思ってきたんだけど、最近ではそうでもないんだ」
「それでも、恵子はダメなのか?」
「そうだね、俺の場合は、スラッとしているよりも、小柄で可愛らしいタイプが好きなんだ」
これが川崎の本音だった、
「そういえば、お前は大人しい雰囲気の女の子が好きだったからな」
そう言われて頭に浮かんだ相手は、直子だった。実は、坂出も自分で口にしながら、想像した相手は、直子だった。
「話を戻すが、だからといって、どうして恵子がグループの中の男性と結婚すると思うんだい?」
「遊び相手と、結婚相手は違うっていうだろう? 恵子は結構、遊ぶことを覚えそうな気がするんだが、どこかで疲れて、あるいは、落ち着いてきてというべきかも知れないが、最後には、気心の知れたグループ内の誰かと結婚しそうな気がするんだ」
となると、譲ということになるのだが、予想は的中。同窓会では、譲と恵子の間に誰も入り込むことはできなかった。
譲という男、よく分からないところがある。
優柔不断で惚れやすく、そのくせ服装には無頓着で、いい加減なところがある、しかも、甘えん坊なくせに甘え下手で、まわりが見ていて、
「どうにもならんな」
と、思わず呟いてみたくなる。
そんな男が、実は結構モテたのだ。
実は譲という男、恵子と付き合っている時、直子にも好きだと思われていた。最初は、恵子との違いに、
「好きでも嫌いでもない、ただの友達」