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三年目の同窓会

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 直子は、同窓会の話に、何の感動も持っていなかったようだ。
「そうですよね、言われてみれば、三年経ったんですよね」
 と、いう一言を発しただけだったが、ただ、彼女が言った三年という言葉が、彼女にとって大きな意味を持っていたのではないかと思うのだった、
 三年という月日に、何か思い入れでもあるのだろうか。意識が三年という言葉を無意識に少しアクセントをつけて声に出したように思えたからだ。
 直子は元々、あまり感受性の強い方ではなく、喜怒哀楽もさほど激しくはない方だ。性格的なものなのか、感情をあらわにしないことで、まわりから目立たないことに徹していたようだ。
 目立たないことが却って目立つ人もいるが、直子の場合は本当に目立たなかった。まるで道端に落ちている石のように、そこにあっても、誰にも気にされない。そんな存在だった。
「気配を消すことができるのよ」
 冗談のつもりだろうか。そう言って微笑んでいたが、直子の場合は冗談には聞こえない。まさしくその通りなのだ。
 直子の特徴は、この一つを取っても表現することができるが、冗談を言っているように見えて、実際にそれが現実になることが多く、直子に限って冗談で済まされないことが多かった。そのほとんどがいいことなので、事なきを得ているが、悪いことだったり不吉なことだったりすれば、これほど気持ち悪いことはないだろう。
 直子は仲間内では、「予言者」を呈していた。直子が笑って何かを言おうものなら、実現してしまうのではないかと、ビクビクしている人もいた。その最たる人間が譲だったのだ。
 直子が一番親しくしていた人は、譲だった。直子ほどの独特の雰囲気を醸し出していると、付き合う人は女同士だとは限らない。直子が男と一緒にいても違和感がない。それだけ他の人と一線を画した雰囲気を持っていたのだ。
 譲は直子と一緒にいることで、自分を確かめているふしがあった。会話が普通にあったのかどうかは、よく分からないが、見ていると、主導権は直子が握っているように思えたからだ。
 直子に備わっている力に何か委ねるものがあったのか、譲は、直子と一緒にいる時、自分を確認しているようだった。学生時代にそこまで分かっていたわけではないが、同窓会に直子だけが顔を出して、譲が来なかったことを考えると、今さらながら、学生時代のことを思い出させるのだった。
 直子が同窓会に現れなかったことで、誰も不思議に思う人はいなかった。譲もそれほど驚いているわけではない。それなのに、川崎は気になっていた。
――皆、口で言わないだけで、本当は八人のうち一人が欠けていることを気にしているのではないだろうか?
 と感じていたが、いつまで経っても、そんな素振りを表す人はいない。本当に最初から仲間が七人だったのではないかと思うほどの雰囲気で、川崎も皆を見ていると、そんな雰囲気に陥ってしまいそうで、怖かった。
――まさか、これも直子の知られざる力の成せる業?
 と思えたほどで、当の譲を見ていると、相変わらずの涼しい顔で、何も気にしていない感じであった。
「直子が来ていないんだけど、何か知らないか?」
 譲に耳打ちをしてみた。
「知らないよ。俺も卒業してから一年間は連絡を取っていましたけど、一年経てば、急に彼女の方から連絡をくれなくなったんです。だから、今はどこで何をしているのか分からないくらいです」
 確かに、連絡を取ったのは間違いない。連絡先も学生時代と変わっていない。譲の前から二年前に姿を消して、今また、元の場所に戻ってきたということだろうか?
 そう考えると、いろいろと辻褄が合ってくるように思えるが、それだけでは説明がつかないことは多々あった。
 確かに連絡をした時の譲は、学生時代に感じた。
「どこのグループにもいるタイプで、グループの中には必要な人物」
 という存在感とはまた違っている。
 譲は、直子と付き合っていたことは認めた。そして直子が一年経って姿を消した時には、二人の仲は終わっていたともいう。
 ということは、譲は自分の目の前から姿を消した直子に腹を立てているわけではない。
――自分の前から姿を消したのに、すぐにまた戻ってきたことに苛立ちを覚えたのではないのだろうか?
 勝手な理屈だが、譲であれば、分からなくもない。他の人が気になって仕方がないことを、まったく気にしなかったり、誰も気にしないようなことに、異常なまでの感情を抱くことが学生時代からあったからで、それが譲の特徴であり、魅力の一つでもあったのではないだろうか。
 それを思うと、二人の関係が、どれほどのものであったかを垣間見ることが難しいだろう。だが、この二人だから存在しえた空間もあったはずであり、今もどこかにその空間が存在しているのではないかと思うほどだった。
 一人がいない同窓会。それは思ったよりも味気ないものだった。
「八人揃ってこその同窓会」
 誰も口にはしないが、そう思っていたに違いない。偶数が奇数になるのだ。一対一での会話ばかりになれば、誰か一人が溢れる。一人寂しく蚊帳の外か、あるいは、どこかの輪の中に入っていくか、溢れた人間には、苦渋の選択であろう。それが譲であり、メンバーの中では譲が溢れることは、全体を一番ぎこちなくする要因であったのは、間違いない。
 この年の同窓会のテーマは、決まっていなかった。
「とりあえず、皆が集まればそれでいい」
 川崎が、自分の中で掲げたテーマだったが、その中で一人、直子が来れなかったのは残念でならなかった。
 気になっていたが仕方がない。何とか同窓会も無事に済み、
「それでは、また三年後に集まることにしよう」
 と、今度の集まりまで宣言して、今回の同窓会は幕を下ろした。
 その時には、その後、自分のまわりで何が繰り広げられるか、川崎には分からなかった。そう、何が繰り広げられるかという、自分にとって後から思えば、他人事のようなことだったのだ……。

              第二章 失踪

 第一回目の同窓会を終えてから、しばらくすると、直子から連絡があった。
「この間は行けなくて、ごめんなさい」
「どうしたんだい? 皆心配していたんだよ。連絡くらいくれればよかったのに」
「ごめんね。でも、連絡を取りたかったんだけど、少し事情があって取れなかったの」
「とりあえず、また三年後に集まろうという話にしたから、今度は来てくれないと、困るぞ」
 本当は、連絡しなければいけないのは山々だが、どう言い訳していいか分からない様子の直子が、勇気を出して、連絡してくれたのだから、ここは直子の気持ちを察して、気持ちを優先してあげなければいけないだろう。
 それでも、少しは釘を差しておかなければいけないことを忘れずに、前向きな気持ちになってほしいという思いから、三年後にまた同窓会を開くことを教えてあげたのだ。
 これが連絡を取ってくれた直子に対しての態度で最良の方法なのだろうと、川崎は思っていた。
「譲には……」
「えっ」
「譲には、連絡をしたのかい?」
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次