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三年目の同窓会

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 美穂という女性を見ていて、言葉巧みな雰囲気は感じない。すべてが自然に出てくる言葉で、彼女のような女性が、男性からも女性からも分け隔てなく人気を得ることができる人なのだろう。
 そんな美穂と一緒にいる姿を、客観的に眺めていて、複雑な気がしていた。
 お似合いのカップルに見える反面、下手をすると、自分が美穂の引き立て役に徹しているだけにも見えるからだ。自分ではそんなつもりはないのに、客観的に見ようとすると、本人とは違った感覚が浮かんでくる。元々、自分を客観帝に見るのが苦手なタイプなのかも知れない。
 だが、自分を客観的に見ることが往々にして多い。くせなのかも知れないが、相手の心を知りたいと思う時、自分と相手を表から見てみようという意識が働くのだ。勝手な想像には違いないが、その時の自分の発想が、いつもの自分と違っていることは分かっている気がしていた。
 川崎は自分と美穂の関係を客観的に見ることは苦手なようだが、さらに気になっているのが、美穂と坂出の関係だった。
 美穂と自分の会話は、誰から見られても関係ないとばかりに、大っぴらに会話をしているが、美穂と坂出の場合は、二人だけのひそひそ話が多いように思う。
 川崎が、美穂と自分の関係を客観的に見た時、どうしても別の意識で見てしまう感覚に襲われるのは、きっと、美穂と坂出の二人の空間を思い浮かべてしまうからだろう。
――嫉妬しているのだろうか?
 嫉妬と言えるかどうか分からない。第一、坂出が美穂のことを好きだというイメージがどうしても湧いてこないからだ。美穂にしても同じで、二人の会話の中に笑顔は存在しない。そこにあるのは、緊張に包まれた真剣な表情だけだったからだ。
 川崎は、そんな二人を見た後、気になるのが恵子だった。恵子はやはり坂出に気があるのかも知れない。川崎と少し離れたところから、川崎と同じような気持ちで坂出と美穂を見つめているに違いないと思った。
 二人の関係は、他の人たちから見れば、恋人同士に見えるだろう。確かに真剣な表情で二人だけの会話に勤しんでいるというのを見てしまえば、
「二人はかなり深い仲なんだよね」
 と誰もが思うことだろう。少なくとも、川崎と恵子以外の人にはそう思われていたとしても無理のないことである。それを分かっていながら、二人を見続けていかなければならない川崎と恵子は、辛い立場なのかも知れないと感じるのだった。
 二人のような関係を見つけていると、自分が羨ましく思えているのを感じてきた。
――あんな女性が俺にもいればな――
 と感じてくると、相手を考えた時、まず最初に除外されるのは、当の美穂だった。
「美穂は、坂出と一緒にいてこそ、似合っている」
 それは、真剣なまなざしを美穂の横ですることができないことを意味していた。同窓会の幹事として、二人で一緒にいることくらいの想像はたやすい。それよりも深い関係になることを考えると、どうしても無理が出てくる。それは川崎もであるが、美穂にも分かっているのかも知れない。
 美穂の他人行儀な言葉、それは誰に対してもしていそうに思うが、同じではない。恋人同士になるわけではないが、美穂とそばにいる時の川崎は、美穂にとって特別な男性であるのだろう。それだけで、川崎は十分な気がしていた。
 卒業三年目の最初の同窓会では、集まったのは、八人中の七人だった。話は全員に持っていき、出席も全員してくれるという返事をしてくれていたのに、急なドタキャンで、幹事としては、困ったものだった。
 メンバーの中では、どちらかというとルーズな方だった一人なので、
「またか」
 という程度で、誰も落胆をしているわけではなかった。やれやれという感覚が一番で、八人が七人になると、奇数になり、男女の比率が狂ってしまう。
 現れなかったのは、桜井直子という女性で、目立たないタイプだったこともあって、本人がいないことよりも比率の問題の方が大きく取り上げられるほどである。
 ただ、それでも、男性の中で、一人直子がいないことをショックに思っている人がいた。学生時代に直子と一番一緒にいることが多かった。大橋譲という男だった。
 譲は、直子と違って暗いわけではなく、ただ、誰と仲がいいというわけではなく、誰とも万遍なく付き合っている男だった。
 譲のような男がグループの中には必要なのだと、川崎は思っていた。誰からも慕われるタイプではあるが、それでもあまり目立たない。目立たない代わりに、何かあった時に頼りになることで、どうしてもメンバーから外せないキャラクターであった。よく言えば、メンバーの中で一番重宝される人間、悪く言えば、都合よく使われる人間ということになるのだろう。
 川崎も、もし譲がいなければ、自分がそんなタイプの人間だったと思っている。幹事に任命されたことでも都合よく使われているのが分かるが、同じ使われるのでも、幹事という肩書がついているだけ、ハッキリとした形になっていて、ありがたい。やりがいもあるというもので、本人としても、まんざらではない。
 譲のような、本当に都合よく使われるタイプの人間は、どのように考えているのだろう?
 どのグループにも一人はいるように思えるが、それほど珍しくないタイプの人間なのかも知れない。
 そんな譲が、一番同窓会を楽しみにしていたように思えた。
 連絡を取った時、電話口ではあったが。最初の声と、同窓会の誘いだと言った時に、二オクターブほど高い声に跳ね上がった時の気持ちは、まるで天にも昇るような気持ちだったに違いない。
 川崎は、その理由が直子にあることを分かっていた。
 譲が直子のことを好きだというのは、学生時代から分かっていた気がする。それは川崎に限らず、誰が見ても明らかで、何も言わなかったのは、皆同じ認識であるために、逆にタブーとされた事項だったように思う。
 川崎が出欠を採るために、最初に連絡を取った相手が譲だった。譲の喜々とした跳ねるような声を聞いた時、
「ああ、連絡をしてよかった」
 と、真剣に感じたほどだ。それも最初から、ここまで感激されると、幹事冥利に尽きるというものだが、それも自分の中で最初から計算していたことではないかと思うと、実にしてやったりの気分になっていた。
 譲に最初に連絡したのは、名簿の中で一番上にあったからなのだが、それだけではないように思えた。
 譲の声を電話越しに聞いた時、川崎の頭の中に浮かんだのが直子の顔だった。
 最初は暗めの声での応対だったが、急に声が高くなると、今度は直子の顔が急に浮かばなくなったのが、川崎には不思議で仕方がなかった。
――どうしてなんだろう?
 直子がまるでドタキャンのごとく、急に同窓会に来れなくなったことに原因があるのではないか。その時はまだ直子のドタキャンはおろか、出欠すら分からなかったくらいである。
 川崎が次に連絡を取ったのが、直子だった。順序からしても当然なのだろうが、最初が譲で、次が直子というのも、よくできた順番だった。
 電話口での直子は相変わらず、能面のような表情が思い浮かんできそうな声だった。声にはまったく抑揚がなく、静かなだけの声というよりも、さらに気持ちを下に突き落とすかのような過激な印象が漂っていた。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次