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三年目の同窓会

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 神社に向かう途中の道で、恵は何も考えずに、ただ前だけを見て歩いていたが、そんなことができるのは、恵だけだったのかも知れない。同じ雰囲気の同じタイプの人から見つめられても、意識をしないからではないだろうか。ここの道を通る時、たくさんいる神様の中の誰か一人が見つめることに成功すると、他の人は見ることができないようになっているという、だからこそ、運試しにここを何度も通る人がいるというくらいだ。それだけ神頼みをしないと、やっていけない世の中になってしまったのだ。
――ひょっとすると、この中には、自分とそっくりの神様がいるのかも知れない――
 と思った。そして、その人が本当に最初に自分を見てくれるかどうか、それが問題である。何も感じることなく、ただ通り過ぎる人もいるくらいで。そんな人は、きっと永遠に自分についてくれる自分によく似た神様の存在を知ることなく過ごしていくのだろう。
 気の毒に思えるが、ある意味、幸せなのではないかと思うこともある。
――知らぬが仏――
 自分にとって不幸なことでも、それを不幸だと思わずに暮らしていける人も、まれにではあるが存在する。一口に楽天的だという言葉だけで片づけられない。その人は、自分によく似た神様に守られているからだ。行動パターン、考え方から、すべてを分かってくれている人、同じ世界に存在できないだけで、不思議な力で守ってくれる。これ以上の理想があるであろうか。
 参道を通り越して、鳥居の下をくぐった時、何かが自分から離れた気がした。何かに憑かれたような気がしたのを感じることがなかっただけに、自分の中にあった何かが、スット離れて行ったと思ったのだ。
 それこそ、鳥居から向こうは別世界。それまで見えていた光景とは違った世界が開けたようで、遠くの方がハッキリと見えてくるような錯覚に陥っていた。
 境内に入り込むと、外界の音が遮断されたような気がした。だが、鳥居の内に入った境内の狭い範囲だけでざわついたような喧騒とした雰囲気を感じることができた。
「まるで夕凪の時間のようだわ」
 内輪で何かがざわついているような感じだが、この感覚、以前にも感じたことがあった。感じたのは、子供のことだったはずなのに、まるで昨日のことのように思い出された。
「あの時は夕日を見つめていたら、気が付けば、知らないところに入り込んでいたんだっけ」
 おばあちゃんの田舎に出かけた時だった。女の子にしてはお転婆なところのあった恵は、じっとしていられない性格で、気になるところは、よほど危険を最初から感じたところでなければ、怖がったりしなかった。冒険が好きな恵は、
「怖いと思えば、引き返して来ればいいんだ」
 怖いところに行くのに、人と決して同行することはなかった。
「一人だったら怖いだろうに」
 と、人はいうかも知れない。
 だが、恵にも言い分があった。
「他の人と一緒だと、見栄を張ってしまって、危ないと思ってもなかなか引き返すことができないでしょう? それに引き返すにも勇気がいる。タイミングが必要なのよ。だから、私は怖いところに行くのは、いつも一人だと考えているの」
 だから、お転婆だと思われているのかも知れない。
 それでも、恵の意見はもっともで、一理あると思っている人も多いだろう。だが、一人で行く勇気を持つことはできない。怖がりが全体の中で一番自分の嫌な部分を隠すことができるのは、リーダーになることだと、恵は思っていた。
「だってリーダーになってしまえば、誰に気兼ねなく、自分の意見を通せるでしょう? 意見を通せないから、どうしても人に影響されて自分の意志とは別の道を選ばされて、結局怖い思いをしたとしても、誰が悪いわけではない。自分が悪いとしか、まわりは見てくれない」
「でも、リーダーには団体を統率する責任が伴うでしょう?」
「ええ、だから私はリーダーにもなりたくないし、怖いところにいくなら、一人で行くと思っているのよ。もっとも、怖いところに行ったりするのは、本当に子供の頃だけのことだったんだけどね」
 その子供の時には、恐怖をあまり感じることがなかった。子供だったからなのか、一人で出かけたからなのか、とにかく、今では考えられないほど、ある意味、度胸を持っていたのだ。
 ただ、怖いところばかりに出かけていたわけではない。冒険して楽しいところを見つけるには、避けて通れない場所にだけ足を踏み入れた。
 その中で、神社の裏にある古井戸が数少ない恐怖だったのを思い出した。
 古井戸というだけでも気持ち悪いのに、神社の裏というシチュエーションも怖さを数倍にする。神社は、山の上にあった。
 石段を上って、境内に入り、二匹の狛犬を意識しながら、お百度石を通り越し、石畳を進んでいくと、さい銭箱がある。そんな普通の神社だったが、その裏には森が人がっていて、誰も入り込んだことのない場所で、誰も噂にしないのは、何もないということが定説になって、誰も疑わないからなのか。それとも、逆に触れてはいけない何かがあって、口にすることさえ災いの元だと言わんばかりの場所なのか、恵には分からなかった。
 いつも一人で行動するいわゆる「よそ者」だったからだ。
 恵はそんな場所こそ探検するのが好きだった。
「怖ければ引き返せばいいんだ。ここには私のことを中傷しても、何ら得をする人なんていないんだ」
 という思いも、恵の冒険心に火をつけた。
 もし、この向こうに何もないことが分かっても、恵は誰にも言わないだろう。
「私は別に自慢するためにいくわけではないんだ」
――それではどうして?
 と聞かれたら、どう答えるだろう?
「そこに森があるからとでも、答えておこうか」
 漠然とした答えであるが、格好のいいキザな答えである。
「そこに山があるから」
 と、答えた登山家の気持ちが分かる気がする。ただ、そこまで思い入れがあるわけではないので、気持ちが分かっても、自分の答えが苦し紛れであることは否定できない。
 その時も最初は西日が眩しい時間だったが、あっという間に西に傾き、気が付けば日が暮れていた。すぐに神社を離れたが、魔物にでも出くわした気がした。それは普段と変わらぬ時間であって、同じ感覚であっても、見える時と見えない時があるのを教えてくれているようだった。
「見えないけど、魔物はいるんだ」
 という話を聞いたことがあるが、見える見えないは、その人の心構え一つで変わるのかも知れないと感じたのだ。
 その古井戸を探検したからと言って、満足感が得られたわけではない。最初は、少なからずの満足感を得ることができるものだと思っていたから探検したのだ。
――そこに何もなくとも、私が自分で度胸があることを試し、試したことに対しての実行力と、度胸を持っていることへの確信が、自分の自信に繋がるのだと、思っていたのに――
 と、思っていたのに対し、満足感というよりも、まるで悪いことをして叱られた後のようなストレスが溜まってしまった。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次