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三年目の同窓会

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 と思っているのかも知れない、
 坂出は、嫉妬も激情の一つの感情の表れだと思っていた。
 また、熱しやすく、冷めやすいのも坂出の性格の一つだった。それが激情家と思われるゆえんでもあるだろう。
 恋愛に対しては、人からはクールに見られているようだ。自分でもクールだと思うことがあるが、それはあまりにも劇場しすぎて、その思いを表に出せずにいることで、自分がパンクしてしまったからだ。
 表に出せない性格が、これほど苦しいとは、最初感じていなかった。何度も女性と付き合って行くうちに、表に感情を出すよりも内に籠めることを覚えてしまったようで、経験が却って逆効果になるということもあるのだと、感じたほどだ。
 他の人には、あまり気付かれないように付き合ってきたのも、慎重だというよりも、内に籠ることで、気配を消すことを覚えたからであろう。
 気配を消すことを覚えると、なぜか嫉妬心がこみ上げてくるのは自分の性格で、それはどうにもならないことだということに気付かされる。リーダー格などになるにはほど遠い性格だったのかも知れないが、なぜそんな坂出がリーダー格になったのかは、本人も気づいていないかも知れない。
「己を知ることが、まわりを知ることの一番の近道だ」
 という考えは、川崎と知り合った時に生まれたものだった。
 川崎も、その考えを共有していた。
 しかし、川崎も最初から確固とした考えとして抱いていたわけではない。お互いに会話することが好きなもの同士が寄って話をしているうちに、気が合ってきたのだ。
 そして、川崎はその思いが固まってきたことを坂出に話す。坂出の方でも、まるで目からウロコが落ちたかのように、その意見を素直に受け入れた。
 だから、川崎は、最初から坂出にこの思いが確固たるものとして根付いていたと思い、疑う術を持っていなかったほどだ。そういう意味では川崎と友達になっていかなったら、坂出もリーダー格としての素質を見出されることはなかったかも知れない。よしんば、いずれは、リーダー格になる素質があったとして、その時、川崎と友達でいるかどうか、まったく分からない。
 川崎にとって、坂出は、恩人のように思っている。
 本当は、坂出の方が川崎を恩人だと思っているが、元来の内に籠る性格が、坂出にも、川崎にも、その思いを抱かせることはなかった。川崎の方だけが、自分を見つめなおし、坂出に対して尊敬の念を抱くことで、自分が表に出ることができると分かっただけでも嬉しかった。
 川崎が、坂出の失踪に一番疑問を持った男だった。探してみようと思ったのも、当然といえば当然、坂出がいないと、自分の存在を再度疑ってしまう時期を迎えるのが怖かったからだ。
 ただ、坂出が、自分の知らないところで、会社の人からの裏切りを受けていたりしたのにはビックリした。そして、スナックのママの存在。
――坂出であれば、他に女性ならいくらでもいるのに――
 と、思われた。
 だが、それがそもそもの考え違いで、坂出という男を理解していない証拠だった。もっとも、川崎が坂出を理解しているのは、坂出自身が表に出せる部分の一番奥深くを見ているから、見誤ったとも言えるだろう、
 見誤ったことを、悪いとは思わないが、川崎は、それでも、
――何か、どこかが変だ――
 と、感じはじめているのも事実だった、
――最初につけていた日記帳。さらに、スナックのママのところからつけ始めた日記帳。それぞれに二面性のある坂出が描かれている。彼はそれほど、二重人格な人物ではないはずだ――
 誰よりも坂出のことを理解していると自負する川崎は、実に不思議に感じていた。確かに川崎は誰よりも坂出を理解している。しかし、坂出の本質にどこまで触れているのかは疑問の残るところだった。
 それは亜由子も感じていた。
――この人はお兄ちゃんのことを分かっているけど、すべてを分かっているわけではない。どのあたりまでを分かっているのかしら?
 と感じていた。
 亜由子は兄妹なので、最初から川崎とは立場が違っている。違っているから、兄を見るには川崎の力が必要なのだ。利用しているようで申し訳ないが、川崎に悟られないように後ろからついていくことにしたのだった。
 川崎には、最初、亜由子の考えが直感で分かっていた。しかし、亜由子と一緒にいるうちに、その直感を疑い始めた。
「亜由子ちゃんに限って、そんな打算的なことはないわな」
 と感じたのだった。
 亜由子にとって、そう思われるのは好都合だったが、騙しているようで心苦しくもあった。それでも、まずは兄のことを探らない限り、先には進まないと思っているのも事実であった。
 恵は、神社に来る途中にあった参道を思い出していた。
 上りと下りの間には、途中を隔てるものがあり、お互いを意識してはいけないのではないかという感覚があった。それは後ろを振り返ってはいけないという思いと、振り返ることができないようにするために、一方通行にしたのではないかという思いである。
 中央を隔てるその場所は、神様のみが存在できる場所として、君臨している。神様は時に、気まぐれで、中央の存在感をまわりに嫌というほど味あわせる時もあれば、まったく何も感じさせない雰囲気を醸し出すこともある。
 神様の存在に気を取られて、まわりの人のことなど、まったく意識がなくなる感覚、また、神様が存在感を消そうとしても消えるものではなく、気配を感じることもないのに、何かが存在しているという普通であれば、逆の感覚を与えるはずのものをまったく違った形で与えているのだ。
 恵は、中央の存在の中に、自分と、先ほど出会ったばかりの坂出を当てはめていた。坂出がどんな人なのか分かっていなかったはずなのに、彼は、まわりを歩いている人間というよりも、中央にいる神様のイメージが浮かんだからだ。
 恵は自分が中央にいるという感覚は間違っていないと思った。今は失恋し、傷心旅行をしている。他の人とは一線を画した感覚を持っている。しかもここは縁結びの神様だというではないか、恵には縁遠いだけに、俗世間を忘れるにはいいだろう、
 一番俗臭い仕事をしている自分だったが、男性に対して奉仕の心は誰にも負けないとまで思っている。もっとも、それくらい思わなければ、やっていけない商売で、自分をどこまで捨てられるかというよりも、客観的に見ることができるかだと思っていたが、それは、自分を神様と崇めながら、客観的に見ることができるかということに掛かっている。
 恵の常連客のほとんどは似たような男性が多かった。
 初めて風俗の相手をしたのが、恵で、恵を忘れられなくなってしまった男性がほとんだということだ。恵はそれだけの魅力があるのだが、初めての人が恵を指名するには、この世界を知らない人たちにとって、女神に見えるからなのかも知れない。
――私のどこが女神なのかしらね――
 という思いを抱きながら、
――やっぱり私を慕ってくれる人がいるのはウソではないのだ。しかも同じ人が何度も来てくれる。こんなに嬉しいことはない――
 と、感じていたのだ。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次