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三年目の同窓会

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 ただ、彼女にも詳しいことが分かるはずがない。彼女に分かるくらいなら、他の人にも分かるはずだと思うくらい、彼女は自分に自信を持っていなかった。
――誰かに似ている気がするな――
 その時は分からなかったが、誰か似ている人と、一緒に話しているような錯覚を覚えた。しかも最近まですぐそばにいた関係の人を感じていた。
 だが、それは勘違いで、最近までと思っていたのは、会わなくなってからすでに三年が過ぎていること、そして、よく話をしたような感覚に陥っていたが、実際には、ほとんど話をしたことのない人を思い出していたのだった。
――そうだ、直子だ――
 同窓会には来なかった直子だったが、来ていれば、三年経った中で、一番時間の感覚を感じることなく会えるのではないかと思うのが直子である。直子には、いくつかのイメージがあり、同時に二つのイメージを頭に浮かべることのできる数少ない相手だった。同時に思い浮かべられるということは、それだけイメージが薄く広がっているのだ。だから雰囲気が暗く、そして目立たない性格に感じられるのだろう。
――どうして同窓会に来なかったんだろう?
 本当は今から思えば、一番会ってみたかった相手である。いないならいないで、意識しなければいいのだと思っていたが、まさか後になって、こんなに思いが募ってくるとは思いもしなかったのだ。
 鍋島由美子とは、その日、近くの喫茶店でいろいろと話をした。
 最初は、坂出と会社の話だったのだが、込み入った話を一介の女子社員に分かるはずもなく、何も聞き出すことはできなかった。しかし、課長というのが、社長直属での繋がりがあるらしく、誰も逆らえないのが現状であるということ、会社に対して、どうやらマスコミなどが何かを嗅ぎつけているらしいということだけは、彼女にも分かっているようだった。
「何となくだけど、分かったよ。ありがとう」
「いえ、坂出さんのお役に立ててれば嬉しいんです」
「君は、坂出のことが好きなんだね?」
 そういうと、少しだけ顔が赤らいだが、
「そういうんじゃないんです。好きという感情とは違うものを感じるんですよ」
 本人にどこまでの自覚があるのか分からないが、本当にこの娘が人を好きになったことがあるのかと言われると、疑問に思える。だが、そんな女性が本当に人を好きになれば、きっと半端ではないような気がしてきた。鍋島由美子は、亜由子とは違った魅力があり、その魅力は、思ったよりも深いところに根付いているような気がして仕方がない。亜由子が神秘的な雰囲気だったのに対し、鍋島由美子には妖艶な雰囲気を感じる。ただ、どちらの女性も放ってはおけない雰囲気を感じるのは、共通した感情が川崎自身に漲っているからなのかも知れない。
「私は、父親がいないので、男性に対して、他の人とは違った感覚を持っているんじゃないかって思っていたんです」
「違った感覚とは?」
「優しくされると、父親の面影を感じてしまって、どうしても甘えたくなるんです。心の中では、甘えてはいけないという思いが人一倍だと思っているのにですね。これっておかしな感覚なんでしょうか?」
「いや、そんなことはないと思うよ」
 途中からの思わぬ、人生相談に戸惑ってしまった川崎だった。正面から見つめてくる鍋島由美子の表情に、目を逸らすことができなくなりながらも、
――正直に答えてあげなければいけない――
 と思うのだが、
――中途半端なアドバイスは、却って惑わすだけだ――
 という思いもあり、どこまでアドバイスしていいのかが難しいところだった。
 だが、正面から見つめる目を見ていると、素直に思ったことを話してあげるのが、礼儀だと感じた川崎も、彼女の顔を正面から見つめた。まわりから見ると、この空間だけ、異様な雰囲気に包まれているのかも知れない。
「私が小学生の頃に、父が交通事故で亡くなったんです。それから、母が一人で私を育ててくれたんですけれど、どうしても、昼間私が一人になることが多くなって、そのせいもあってか、私はあまり人と一緒にいることがなくなり、誰かと話をすることも、ほとんどなくなったんです」
 何となくイメージは湧いてくる。
 実際に同じような境遇の女性を直接知っているわけではない川崎だったが、話を聞いていると、不思議と境遇が想像できてしまうのだった。
 彼女は続ける。
「高校生になって、私に告白してきた男の子がいたんです」
「ほう」
 中には静かな女の子を思っている男性がいても何ら不思議ではないが、イメージとして告白できるタイプではなく、片想いに終わってしまうタイプだと思ったので、不思議に感じたのだった。
「その人は、いつも大人しい人で、私とは違うところで、いつも一人でいる人でした」
「君は、その人を前から意識はしていたのかい?」
「ええ、意識はしていました。でも付き合ってみたいとは思わなかったんですが。もし、男性と付き合うようになるんだったら、彼のような人がいいんだろうと思っていました」
 どうやら、彼女は自分の意志というよりも、雰囲気の中から、自分のことを客観的に見て、付き合える人を想像していたようだ。元々、彼女のようなタイプは、自分を表に出すことをしない分、客観的にしか見ることができないだろうと思っていたので、そのあたりは話を聞いていて。想定内のことであった。
「彼が告白してくれた時、本当はすぐにでもOKしてもいいと思ったんですけど、つい躊躇したように、お返事は少し延ばしたんです」
 これも、彼女の雰囲気からは十分に想像できることだった。しかも、相手の男の子も、きっと最初からOKしてくれるということは考えていなかったかも知れない。もし、いきなりOKしてくれたとすれば、却って戸惑いを覚えたのではないかと思うくらいだった。
「なるほど、お互いにそれが正解だったかも知れないね。付き合い始めてからも、二人は、お互いに遠慮深かったわけでしょう?」
「そうですね。彼は優しかったし。私も彼の優しさに甘えることが、彼の気持ちに答えることだって思ったほどですから」
 そういうと、少し寂しそうな表情になった。
「でも、長くは続かなかったんでしょう?」
「ええ、そうなんです。どこかぎこちなくなっちゃって」
「分かる気がするね」
 お互いに遠慮ばかりでは、相手の気持ちに答えることはおろか、本当の気持ちに触れることもできない。まったく触れることができなかったわけではないのだろうが、触れられないことがなぜなのか、分かっていない。それが、修復しなければいけない大事だということも意識していなかったのかも知れない。そう思うと二人の関係は、情けないという思いとともに、何に対してか分からないが、可哀そうに思えてくるのだった。
「分かってくれますか?」
「うん」
 頷いてから、少し時間を持った。そして、
「でもね、どっちが悪いというわけではないんだろうけど、お互いにまだ未熟だったということは間違いのないことさ。よく言うだろう、初恋は淡いもので、なかなか成就しないって、それと同じようなものなんじゃないかな?」
 と川崎が言うと、
「なるほど、そうですよね」
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次