小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

三年目の同窓会

INDEX|14ページ/56ページ|

次のページ前のページ
 

 二人の間にツーカーの仲が存在し、以心伝心、お互いに、人に対して欺きながら、二人は愛を育んでいたのでないかと思えた。ママは坂出が会社の同僚を欺いていること、そして、坂出はママが自分を探しに訪れた、川崎と亜由子を欺こうとしていることを、それぞれに知る由もないのではないかと思う。
 川崎は、坂出のそんな思いを分かっているが、亜由子には、どれだけのことが分かっているのだろうか。
 亜由子は、器用ではない。人の心を読むのも苦手だろう。だが、一緒にいればいるほど、亜由子は勘が鋭い女の子ではないかと思うようになってきた。勘が鋭いということは、意外と他が疎いということでもあり、一緒にいて、大らかな感じがするのは、それだけ、亜由子が勘の鋭い女性であるということを示しているように思えてならなかった。
 いつも自分に素直でいたいと言っていた坂出の顔を思い出していた。坂出は学校ではあまり目立たないタイプだったのに同窓会を開こうという話になった時、一番具体的なイメージを抱いたのが、彼だった。
 同窓会の話は突然出たはずだったのに、すでに坂出は頭の中にイメージがあった。誰かが言うのを待っていたのか、それとも、言い出すのを分かっていて、イメージを最初に膨らませていたのか。
 もし、誰も言い出さなければ、どうしていただろう?
 自分から言い出したのだろうか? そんなイメージは坂出から湧いてこない。自分の中で気配を消しているかのようで、言い出すのをいつまでも待っているように思えて仕方がなかった。
 同窓会を開くことで、最初に考えたのが、「タイムカプセル」を作ることだった。だが、何も埋めるものがないのに気が付いた。掘り出した時に感動するものを埋めるのがタイムカプセルであって、果たして数年後に掘り出して感動するものを埋めることができるかが問題だった。
 懐かしいと思うだけのものであれば、感動に値しない。埋めた時に何を考えていたかを懐かしむというのが趣旨であれば、川崎にとって、埋めたその時に、思い出して楽しい何かが存在するのかが疑問だったのだ。
 同窓会を開くことで、人と顔を合わせて懐かしむことは、楽しみの一つだが、思い出を埋めるという行為自体が、許せない感覚であった。
――思い出を埋める――
 ずっと以前にしたことがあったように思った。タイムカプセルを埋めた経験があるわけではないのに、穴を掘って埋めたのだ。
 穴を掘る時に、照らされた月明かりが、その時は結構明るかったように思う。盛り上がった土が細かな光と影の部分を無数に作り上げ、光りの強さが、影の暗さをさらに引き立てているかのようだった。
 子供の頃に見た映画で、墓を掘り返しているシーンがあった。月明かりの中、掘っている人間のシルエットが浮かび、曲がった背筋で、必死にスコップで掘り返している。
 顔がだんだん人間ではなくなってきて、鼻から口に掛けて、前に膨らんでくるようだった。耳も上に鋭く伸びていき、その姿はさながらオオカミのようだった。
 そこまで来ると、そのシーンをその日に夢で見たのを思い出した。映画ではオオカミになっているところまでは写していなかった。あくまでも見ている人の想像に任せる演出だったのだ。
 オオカミに変身していくのを感じた時、夢の中で想像が膨らんでくるのを感じる。映画で見た光景を、夢として再現を試みようとするが、再現は難しい。どうしても、自分の中での勝手な想像が邪魔をするのだった。
 同窓会をイメージした時、勝手な想像を夢で見たのを感じた。川崎も、実は同窓会を頭の中でイメージしていた一人だった、
「誰が言い出すか」
 という違いだけで、皆イメージを持っていたのかも知れない。
「お兄ちゃんの中で、何か変化があったとすれば、同窓会に出た後だったかも知れません」
 亜由子は、川崎とママに向かって言った。
 ひょっとすると、最初から二人を前にして一番言いたかったことではないかと思う。川崎に対しては言おうと思えばいつでも言えたことで、別に言うのを躊躇っていたわけでもない。
「同窓会って、いつだったんですか?」
「二か月くらい前でした」
 ママの質問に、川崎が答えた。会話の流れとしては、普通だった。時間と空間に隔たりはなく、自然な会話だった。亜由子が訪ねてきてから、二週間くらいが経っているので、そろそろ二か月になるのではないだろうか。
「そういえば、二か月前くらいから、坂出さん、少し変わったかも知れないわね」
「変わった? どのように変わったんですか?」
「元々、無口だったんですけど、同窓会があったその前後くらいは、とても楽しそうだったんです。私が、楽しそうですねって聞くと、ニッコリと笑って何も言わずに頷くんです。それがあの人の魅力だと思うんですけど、無邪気に思えるんですよね。でも、その後、今度は急に暗くなって、何か思いつめたような表情でボンヤリしていることが多くなったんです」
 坂出は確かに無口で、余計なことはあまり言わない方だったが、態度が豹変することはあまりなかった。明るかった後すぐ暗くなったなど、まるで躁鬱症の症状は、彼から想像できるものではなかった。
 ましてや、思いつめたような表情が一番似合わない男だった。慎重な性格で、石橋を叩いても渡らないくらいのところがあるくらいなのに、なぜか表に見えているのは、いい加減なところばかりが目立ってしまうことだった。
 損な性格なのだろうか?
 川崎が正面から見ている坂出と、客観的に見ている坂出とでは、まるで別人のようだった。正面から見ると、これほど慎重な男はいないと思うくせに、客観的に見ると、女性にだらしなく、物忘れも激しく、同窓会でも自分を幹事に押し付けて、結局仕切るのは自分だとばかりに、おいしいところばかりをさらっていくようにしか見えない、
 客観的に見えている坂出は、自分が被る被害をすべて、坂出のせいだと思うと、見えてくるものが客観的だと思っている。普通に見えているのは、本当は客観的な視点での見え方なのだろう。
「では、なぜわざわざ正面から見るのだろう?」
 坂出には、正面から見ないと見えてこない性格があった。それは、自分の性格と照らし合わせることで成立するもので、自分にとっての受け身と、能動的なものが交差する部分で変わってくるのではないだろうか。
 人の性格を自分と照らし合わせて判断する見方は、川崎独特の見方だった。
「他の人はそんなこと、しないよな」
 と思っているが、ひょっとすると同じような考えの人もいるかも知れない。それも身近にである。
 坂出がその一人ではないかと思うようになった。正面から見ようとしている相手は紛れもなく坂出なのだ。他の人には、なかなか感じることはない。
 最近、それに近い思いを感じた相手は、亜由子だった。
「坂出と血の繋がった兄妹なのだから、当たり前のことではないか」
 と、思うのだが、どこか釈然としないところがある。
 男と女の違いがあるのだから当たり前のことだ。
 女性を正面から見るのは、
「自分のすべてを知ってほしい」
 という思いが強いからだ。それは相手を好きになったから、自分を好きになってもらいたいという思いが強いからだ。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次