コート・イン・ジ・アクト6 クラップ・ゲーム・フェノミナン
そのタイプは外から一見する限りでは怖くない。みんなニコニコ献金活動。洗脳後にはただ組織に金を貢げば楽園に行けると信じ切った人間になり、それ以外のことは一切どうでもよくなるのだ。
確かカワニシ会というのは後者も後者、日本の大きな団体としては最後尾くらいに位置する存在じゃなかったか。予知についてはせいぜいが「カワニシ会はシステム見直しに取り組んでいまーす」とセーノで朗らかに言うくらいのもの。決して大声で叫びはせず、廃止を強く訴えもしない――黒い話は尽きないと言え、テロなどとはまったく無縁だったはずだ。
奈緒は言う。「ともかく今日これから起こる殺人は、マルタイもマルキュウも共にカワニシの会員であるようでした。ふたりは親子で、だからマルキュウは親としてマルタイを知っていたわけです」
「ふうん」
とおれは言った。予知では殺す者の名前は、殺される当人が知ってなければわからない。もし被害者が間違った名で加害者を覚えていたら能力者はその違う名で犯人を認識することになるわけで、まあたまにそういうこともあるようだが、しかしあんまり親の名前を間違って覚える子はいないだろう。今回は別に問題ないはずだ。
「苗字が違うってことは、娘は結婚してるってこと?」
零子がメモを取りながら言った。
「お腹の子はマルタイにとって孫になるっていうわけなの? ちょっと穏やかじゃない話ね」
「それは……」
と奈緒。大体殺人予知があるのに人が人を殺そうとする時点でかなりおかしい。とは言え世の中、毎日毎日そんなおかしな話だらけなのでもあるがしかし、
「あたしが〈視〉たのはよくあるカルトからの脱走を巡る諍いという感じでした。娘の方は『お腹の子をこんなところで育てたくない。どうも昨日の鎌倉のテロもカワニシがやったことらしい。だからなんとか逃げ出さなけりゃ』と。それを母親が追いかけて、『なぜカワニシが不満なの。真の絶対幸福は世界でここだけにしかないのよ。実社会なんて悪いところであたしの孫は産ませないわ!』――で、グッサリ」
「ははあ」
全員で頷いた。なるほど予知があるからって無くなるはずがない話だ。
ってゆーか、殺人予知のせいでかえって増えたんじゃあねえか? グッサリとかボッコンとかギュウギュウギュウなんてとこまでいかないやつは、どこの町でも昔から日々何十と繰り広げられてきた光景だろう。狂信に走った人間はもう怪物だ。そりゃグッサリもやらかしちゃうよな。
班長が、「それでマルキュウが昨日のテロはカワニシ会の犯行だと考えた根拠は?」
「だからそこまではわかりません。殺しを止めて訊いてみるしかないのでは?」
「ふうん……ま、いいけどな」
「もうじき着くぞ」
副操縦士がこちらを振り向いて言った。今日は彼らはそこでおれ達を降ろして終わり――ではなく、後で上空から各種の機器で支援してくれることになる。
ヘリは高度を下げていった。行く手に警察署のビルが見える。その向こうに青く霞む横浜の海。
作品名:コート・イン・ジ・アクト6 クラップ・ゲーム・フェノミナン 作家名:島田信之