コート・イン・ジ・アクト6 クラップ・ゲーム・フェノミナン
「やっぱりホシが直(じか)に言ってるのがまずいんだろうな。『中絶と予知をやめにしろ』――同じことをいま叫ぶのは、『あのテロリストと同類だ』と自分で言うことになる」
「だから言わなきゃならなくなる、『ワタシ達はあの犯人と違います』って? そんなんやっても信者集めにどうせならないんだから、ここはほとぼり冷めさせて、次に都合のいい事件が起こるの待った方がいい――」
そういうことか。今度の事件は廃止団体の利益にならない。だから連中は鳴りを潜めてしまっている――。
まあそれでも全国で何万人かは狂信の餌食になる者もいるだろう。日本に五十の県があり、それぞれ二十の街があって、百人ずつ騙されたなら十万人。
どうしたってそのくらいはひっかかる。だがそれ自体はいつものことだ。カルトの勧誘と洗脳は常に行われていることで、おれが気にしてもしょうがない。
それどころか、普段は何もしなくても十万の信者が得られるものを、今月たった一万人、なんてことになるかもしれん。この事件はカルト団体にしてみればおそらくマイナスでしかない――。
どういうことだ、と思った。何か気味の悪いものを感じた。廃止論者が困る事件はおれにとってはいい事件だ。そう言ってもいいのだけれど、しかし喜んでしまっていいのか。
とてもそんな気になれなかった。この事件は何かおかしい――最初から頭にあったその思いが、どんどん膨らんでくるのを感じる。
ホシは何か企んでいる。決してただの愉快犯では有り得ない――その考えが強まってくる。だが、なんだ? 何を狙ってテロ紛いの行動に出たのだ? 今の段階でわかることが何かあるとは思えないが――。
と、思ったときだった。壁のスピーカーから声が流れた。
『通信部より伝達。殺人事件の予見感知。急襲隊木村班は出動してください――』
「おっと」
おれはポテチの袋を置いて立ち上がった。
「行ってくるぜ」
「行ってこーい」一同が言った。
スピーカーが続けて、
『追加報告。阻止対象者及び要救命者の姓名判明。対象は女性、ヒライカズコ。要救命者は同じく女性で、タカギエリ。なお、要救命者は妊娠している模様――』
「はん?」
と言った。全員が、目をパチパチさせておれを見た。
「妊娠?」
スピーカーがまた続けて、『昨日(さくじつ)の鎌倉のテロとなんらかの関係がある見込みあり。特捜官が同行します――』
おれは言った。「え?」
作品名:コート・イン・ジ・アクト6 クラップ・ゲーム・フェノミナン 作家名:島田信之