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コート・イン・ジ・アクト6 クラップ・ゲーム・フェノミナン

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『ははあ』

と女子アナがビックリした顔で、

『〈中絶反対〉と言うと、赤ちゃんの命を護ろうという人道的な思想なのだとばかり思ってましたが……』

『現代ではそういう考えの人が多いでしょうね。それはそれで正しい物の見方であると思います。ですが、日本の政治家なんかも考えてみたらどうですか。「今どきの若い娘は遊んでばかりで子を産まない。いっそ中絶禁じた方がよくないか」なんてことを言うおっさんばかり……そんなので人の命をちゃんと考えているのなんかいませんよね。つまり元々根っこにあるのは〈女は産む機械〉という思想なんです』

『では、今回のテロの犯人もそういう思想の持ち主だと?』

『それはまだわかりませんが……とにかく、日本は島国のために、外敵の侵略を受けにくい。ゆえに中絶を禁じてまで子供を殖やす必要がなかった。日本で中絶反対があまり大きな声にならず、これまでテロがなかったのも、それが大きな要因でしょう。今度の鎌倉の事件には、わたしとしても「まさか」という思いですね』

『するとこれは、「日本では起こるはずのない事件だった」ということですか』

『そう言ってもいいのではないかと』

『しかし現に起きてしまったわけですね。犯人像としてはどのようなものが考えられると思いますか』

『うーん、やはり、カルト教団のようなものということになるのでしょうか。海外から流入したカルトには、中絶禁止を唱えるものが多くあるわけですから』

『これを機会に日本でも禁止論が高まることはあるでしょうか』

『それは、ないと思いますね……「中絶は悪いことではあるが、法律で禁じるべきでない」というのが、一般的な日本人の捉え方だったはずです。この事件はその意識を高めこそすれ、逆になることはないのじゃないかと。そもそもテロで世に何かを叫んでも逆効果になるだけではないかとわたしは……』

――と、言ったところでCMになった。

「どんなもんだろうなあ」

おれはポテトチップスをポリポリ食べながら言った。別の班のやつらが数人、一緒にテレビを囲みがらやはり菓子などつまんでいる。

今日はどうやら普段と違い、班ごとに分かれるのでなくて、各チームから男は男、女は女、班長格はそれ同士でと、別にまとまる格好になっていた。だからこの場に固まってるのは、みんなおれと同格のヒラ巡査か巡査長の男ばかりだ。

そこにまた、ひとりやって来て言った。

「今日は署の表にロクに来てないな。いても全然元気ねえよ。ホシの要求が中絶禁止だったから、勢い失くしちゃったのか」

「ふうん」とそれに応えて言うのが、「意外っすね。キリスト教原理主義とか来ると思ったのに」

「だからさ。それは警察に言ってもしょうがねえだろう。〈中絶反対〉は医者に向かって叫ぶもんで」

「ああそうか。じゃあ病院を囲むんだ」

「いや、どうなの? 日本で中絶反対はやっぱり流行(はや)らないのと違う?」

通常ならば殺急隊は交代で非番を挟んで訓練と待機を繰り返す。訓練日にはただひたすらシゴかれて、待機の日には雑務をしながら出動を待つ。待機日に出動が一回もないってことは滅多になく、月にまず一、二度は休みが取り消しに遭うことになる。班ごとのローテーションになっているから、すべてのチームが一度に集まるのは年に数回だ。

今日がその例外というわけだった。昨日の爆弾テロのために休みも訓練も取り消しで、全チームが交替で仮眠を取りつつの待機状態。

すると大体、同じ立場の人間同士がつるみ合い出し、こんな具合になるわけだ。

ちなみにお産で妊婦が死ぬとか、胎児が中絶や流産で死ぬのは、殺人予知ではほとんど感知できないという。殺人や事故と病死の境界線上にあるものなのでそうなるのは止むを得ないとか、手術の際の麻酔の影響もあるのじゃないかと言われているが、あまりハッキリしたことは、ハッキリとは言えないようだ。

よくロクでもない女が医者にも診せず子を産んで、トイレに流して詰まって捕まったりするが、それが予知で防がれた話というのもあまり聞かない。『胎児や新生児ともなるとあまりに意識が幼過ぎて自我の形成に至らないからではないか』とも言われるが、それもあくまで仮説に過ぎない。

てなこと言うと廃止論者が『そうらまたまた欠陥が』と指差して、『廃止廃止』と言い立てるが、普通の人はあまりそこまで細かいことを気にしたりはしないようだ。

――と、そこに、コンピュータをカチャカチャやってた隊員がひとりいたのが顔を上げて、

「これまで〈中絶反対〉を言ってた団体もあるにはあるけど、たちまちコメント出してますね。『今度のテロを我々の活動と一緒にするな』、と」

「どう違うって?」

「ええと、そうねえ。『妊娠したら中絶せずに子を産んで、やっぱり愛情湧かなかったら赤ちゃんポストに入れましょう。きっと大切にしてくれる人がどこかにいるはずです』」

「それ、猫の話じゃねえよな」

「マジメみたい……あとこういうのもあるな、『やはり中絶を許すからダメな女がつけ上がるのだ。女は余計なことを考えず、家庭に入り子を育てればそれでよい。子を立派な大人にして初めて女は一人前と知るべきである』」

「なかなかいいこと言っているように聞こえるな」

「あっ、よく見るとこれ婦人会だ。〈真の女の幸せを追求する主婦の会〉だって」

「えーっ!」

その隊員は結局言う。「どれも極端な集団みたいだなあ」

「中絶自体は確かに悪いことなんだよな。なのになんでそうなっちゃうの?」

「おれに聞かないでくださいよ。でも戦争や原発と同じで、反対する人間は問題をちゃんと見てないってことじゃないすか。マジメさだけが突っ走ってトンデモないとこ行っちゃうんじゃないかと……予知の反対もそうだけど」

「で、そういう人間は、カルトに引きつけられる、と。今度の場合はどうなるんだ?」

「さて……システム廃止団体は、今度の件も結局予知が悪いからだと早速言い出したようですけど」

「その割には署の表の連中なんか、全然元気ないわけだよな」

「あんだけの大事件があったのにね」

普通であれば愉快テロなんて騒ぎがあれば、その翌日は署の前は廃止を叫ぶ市民で埋まる。『そもそも予知なんかがあるからふざけた犯罪が起こるのだ』というわけだ。

その一方で『信者獲得のチャンス』とばかり勧誘員が駆けまわる。テロひとつで何億円の大儲け。愉快テロは狂信の扇動者には都合のいい犯罪であるはずだった。

昨夜は署の前に大勢詰め寄せ、朝にはさらなる群集が津波のようにやって来るのじゃないかと見られた。しかし、そうはならなかった。どうして?