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暗闇に棲むもの

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 ラウルにはそれは好機と思われた。イングリッドの云ったように赤い実の付いた葉を焼石の上の鍋に投げ入れて、部屋から出た。冷たい外気に触れると、爽快な気分になった。部屋に戻ると身支度をして、馬小屋の二階から垂れる赤い紐を引く。何度となく引くが、イングリッドは降りてこない。心配になり二階に上がると
イングリッドは・・なんということだ、猿轡をされて雁字搦めに縛られていた。なんて酷い仕打ちだ!ラウルはイングリッドの縄をほどき開放すると、キスをする。
もう許すことはできない。二人で逃げる。追ってこれないように、納屋の後ろの部屋の外から鍵をかう。
これで暫くは出てこれまい。イングリッドが干し草の中に隠し持っていた、食料や水等荷物一切を馬車に積む。追手を阻むため馬車以外の馬を納屋から解き放した。
さぁ、行こう!
ふたりは小さな場所に乗り、納屋から出た。
空は夕暮れから夜に代わっていた。やがて月が出てくるのだろう。
馬を操り、馬車を東に向けて走らせた。
すると、闇に潜むモノたちが蠢くのが分かった。
奴らが追ってくる!
隙ッ歯から息を通した様な不快な音を立てて、奴らが追ってくる!
シシシシシシシシシシィ―ッ!
その数は予想も出来ない・・ほどの多さだ。
ラウルは馬に鞭をふるうと、馬は嘶き、足を速めた。
すると奴らも足を速めているようで、不快な音が増える。
シシシシシシシシシシィ―ッ!
シシシシシシシシシシィ―ッ!
シシシシシシシシシシィ―ッ!
さらにラウルは馬に鞭をふるう。馬車の車輪が軋む程に馬が足を速めた。
走れ!
走れ!
奴らから抜け出すんだ!
シシシシシシシシシシィ―ッ!
シシシシシシシシシシィ―ッ!

シシシシシシシシシシィ―ッ!

シシシシィ―ッ!
馬の蹄の音が早まり、奴らの放つ不快な音が遠のいた。
道なりに東に進むとやがて、満々に満ちた月が東の空に浮かび上がった。
これで暫くは奴らも影に潜んで出てこれないだろう。
月光に照らされた道を進むと、分岐点が見えた。
「まっすぐに行くと土砂崩れよ」イングリッドが分岐点を左に曲がるように促した。
左に曲がった途端に急な登坂となり、馬は嘶く。
切り立った岩場を回り込むような道を登り、切通しを通ってゆくと、突然道はなくなった。
巨大な岩の壁にぶつかった。
二人は馬車を降りた。
イングリッドに言われるがまま、荷物を背負い、岩の壁に刻まれた階段を登ってゆく。

作品名:暗闇に棲むもの 作家名:平岩隆