悠久に舞う 探偵奇談17
翌日の放課後。ちょっと早めに来いと顧問に呼び出された伊吹は、足早に弓道場に向かっていた。春に向けてやることは山積み、主将というのは本当に忙しい。
「おー、来たな神末」
「えっと、卒業式後の三年生の追い出し会については…」
「ああ、そっちじゃないんだ。先に紹介しておこうと思ってな」
顧問の隣に、背の高い若い男が立っている。
(誰だ?OB…にしちゃ見覚えないような…)
濃紺のスーツを着て、腕にコートを掛けているから、高校生ではないだろう。その横顔を遠目に見て、おやと引っ掛かる。どこかで見たような…?
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
笑った。やっぱり、どこかで見たことのある面影。
「こちら、四月からうちに教育実習に来るセンセイでな、弓道部の指導もお願いしてるんだ」
実習生か。では大学生なのだろう。こちらを見て小さく笑っているその表情に、やはりどこか既視感を覚える。清潔そうな黒髪、通った鼻筋と、柔らかな印象を与える眉。笑った時の目の横の皺。どこかで見た…。
「なんと須丸のお兄さんだそうだ」
「は?」
お兄さん?瑞の兄だって?目の前の男を瑞の兄だと意識するまでに数秒要した。
「え!?お兄さん!?瑞の!?」
「須丸紫暮(しぐれ)です。弟が世話になっています」
丁寧に頭を下げられ、伊吹も慌てて倣う。
「弓道部主将の神末伊吹です。あの、瑞、くん、にはいつもお世話に…」
伊吹の慌てっぷりに紫暮がくすりと笑う物だから、伊吹は言い訳のように続ける。
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白