悠久に舞う 探偵奇談17
颯馬と一緒に意識を失った瑞を家に連れ帰ると、祖父が驚いたように飛び出してきた。
「どうしたんだ」
「多分、古い古い意思の毒気にあてられたんだと思います。だいぶ同調しちゃってたし」
颯馬が言った。思えば瑞は、小さい頃からよく熱を出して両親を心配させたものだったなと紫暮は思い出す。人一倍霊感というか、そういうものが強いからなのだろうか。
「ぐっすり眠れば大丈夫だろう。瑞は昔からそうだったから」
百合と颯馬が帰るのを玄関先で見送ってから、紫暮はことの次第を祖父に報告した。そうかそうか、と祖父は紫暮に穏やかな言葉を返してくる。
「それは不思議な体験をしたな。まだ春も早いというのに桜の花吹雪とは」
「…瑞の視ている世界の一端に、俺は初めて触れた気がする」
ああいった輪郭を持たぬものの声を聞き、その分類し難い存在を慈しむ。それが瑞にとっては日常だったのだろうか。目の前で消えていったあの美しい花を、紫暮もその目で見たのだ。あれは、信じがたい体験だった。そして。
「美しかったよ」
儚く、そして悲しい。だから美しい。瑞には、世界があんなふうに見えるのだ。怖いだけではない。鮮やかに色付き、決して日常に埋没していては気づけない存在がある。
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白