悠久に舞う 探偵奇談17
兄と弟
すべてが終わった。若菜は安堵からかしゃがみ込んで深く息を吐いている。
「よかった…おばあちゃんに報告してあげないと」
もう得体の知れない何者かが、彼女を訪ねて来ることはないだろう。瑞もとりあえず安堵する。紫暮と並んで前を歩く若菜の足取りはずいぶん軽くなっている。
「颯馬、ありがとう」
「いいよいいよ。俺の方がいつもお世話になってるんだからー」
颯馬から得たヒントが解決に結びついた。今日のところは素直に感謝しておく。
「ところで、瑞くんと郁ちゃんって何かあった?」
「え」
颯馬はいつものように機嫌よさそうな横顔を見せたまま続けるが、郁の気持ちを知っている瑞は、わずかに動揺してしまう。
「あったんだ?」
「ないよ。おまえこそなんでそんなこと聴く?」
「だって、この頃郁ちゃん、つらそうだから」
…つらそう?
それって、俺のせい?
「俺は別に、一之瀬、に…」
「うん?」
「いや…あれ?」
瑞の足元がぐらりと揺れた。地震かと思ったがそうじゃない。自分の身体が揺れているのだ。
「瑞くん、どうしたー?」
立って居られない。吐き気と眩暈。
「…みぃちゃん!」
若菜の呼ぶ声がする。瑞、と呼びかけ腕を掴んでいるのは紫暮だろうか。でも、もう意識が保てない。
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作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白