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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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悠久に舞う 探偵奇談17

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「…あなたがとっても綺麗な花を咲かせていたこと、わたし忘れない。夢でみた、あのぞっとするくらい美しい桜の花…」

影はもう見えなくなっていた。霧散したように、すりガラスの向こうには何もない。

「消えたみたいだね」

気配が消え、空気が正常に戻る。瑞の耳ももとに戻った。

「もう大丈夫だよ。ほら、若菜ちゃんおいで」

颯馬がそう言って立ち上がると、玄関の鍵を開けた。若菜を手招きし、取っ手に手を掛ける。

「最後の若菜ちゃんの言葉が、嬉しかったんじゃないかなあ。ほら」

がらっと颯馬が戸を開けると、夜の闇の中に白い花吹雪が舞い上がった。雪の様に降ってくる花びら。視界を覆い尽くすほどの、桜吹雪だった。若菜がその下に佇み、両手で花びらを受け止める。

「すごい…なんて綺麗…」

この世の光景ではなかった。瑞は、己の手に落ちた花びらをまじまじと見つめる。手のひらに、そして地面に落ちた花びらは、砂の様に砕けて消えていく。一瞬の美しさを体現したかのようなその不思議な光景を、紫暮もまた言葉を失ったまま見つめていた。

「…消えてしまっても。姿カタチがなくなってしまっても」

瑞は、あの夢を思い出しながら呟く。

「美しかった姿は、たくさんのひとの記憶に残ったはずだ。それって永遠ってことじゃないかなって思う」
「みぃちゃん…」
「俺も忘れない。この、美しい花を咲かせていた立派な木のこと」

季節が巡って春が来るたび思い出すだろう。きっと若菜も。

すべてが消え去り闇だけが残ってからも、瑞らはしばしそこに佇んでいた。消えてしまった、美しかった花の主を思いながら。







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