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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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悠久に舞う 探偵奇談17

INDEX|50ページ/57ページ|

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「ヒトの命で咲く桜なんて聞くと怖いけど…あのぞっとする美しさはきっと、命の美しさなんだろうね…」

若菜のぼんやりとした呟きに聴き入っていた瑞だったが。

「いって…!」
「みぃちゃん!大丈夫!?」

差すような鼓膜の痛みが走る。空気が細かく振動している。来た。すりガラスの向こうに移る黒い影。若菜が、立ち上がる。


「今夜、もらい受けたい」


あの声だ。ざらつく声が全身を総毛だたせる。しかし若菜はもう怯んでいない。

「…わたしは、あこの家も命も、あなたにあげるつもりはありません」

きっぱりとした口調で、若菜は答えた。影が、ゆらゆらと左右に揺れて形を変える。煙のようだ。以前にはなかった反応だ、前回若菜は一方的な相手の言葉を聴くことしか出来なかった。しかし今回は違う。明確な意思を持ち、相手に伝えようとしている。それが影を戸惑わせているのだ。


「もらい、受けたいのです」


再び、影が発する。

「だめ。諦めて」

若菜の声はもう震えてはいない。

「わたしが扉を開けること、あなたに命をあげること、これから先も絶対にありません」

影は、もう何も言わなかった。決定的な一言を前に、もうこの影は存在理由を持たない。風に消えていくだけのモノに過ぎない。ざらりとその形が頽れていくのがわかった。

終わったのだと瑞は思った。約束は、これでもう反故だ。孫がいいと言ったら、という百合のその条件を、この影は律儀に守り続けた。最後まで。


(颯馬は、その約束を守ろうとする姿勢に、相手が神様じゃないかと予想していたけど…きっとこの桜の木は、人間に対して親しみの気持ちみたいなものがあったんじゃないかな)

瑞はそう思う。先ほど若菜が言ったように、かつてこの木の美しさを守るため、命を捧げていた人間がいたのではないか。そんな気が、瑞にはするのだ。人間に切られ、焼かれてしまってもなお、心のどこかに、ヒトに対する感謝の念や親しみの念があったのではないか。自分を美しいと愛でてくれたヒトへの思いが。

「あなたの願いを叶えることは出来ない。でも、」

若菜が悲しい声で続けた。