悠久に舞う 探偵奇談17
熱が出るなんて小学生の頃以来かもしれない。本当に身体は丈夫なのだ。家族がびっくりしていたが、郁は自分でも驚いていた。
体温計を挟むと、まだ熱があるようだ。頭がぼんやりするし、全身がだるくて関節が痛い。
昨日雨に濡れたのがよくなかったのだろう。あの後、結局颯馬には何も話せなくて、彼はずいぶん気長に待ってくれたのだが申し訳なかったなと思う。帰ってから、濡れたままぼんやりといたのが熱の出た原因だろうが、
(いま何時…?)
スマホを開くと、正午を回ったところだった。午前中にメッセージが届いていた。
「須丸くんから…!」
瑞からのメッセージ。起き上がって、そっと画面を開く。
『伊吹先輩に熱出たって聞いた。昨日は若菜ちゃんの件で長々と引き留めてごめん。ゆっくり休んで。返信不要』
単純に嬉しい。ぶっきらぼうな文章だけど、気遣ってくれたのだというそれだけで嬉しかった。返信不要とあるが、郁は返事を送った。
『わざわざありがとう。大丈夫です。若菜ちゃんのこと早く解決するといいね』
しばらくして瑞から返信が来る。
『また来週にでも報告する。お大事に』
こんな些細な内容のやりとりでも、郁には特別なのだ。大切で、すごく嬉しいことなのだ。たとえ瑞に他意はなく、チームメイトの体調を心配した程度のことであってもだ。
今だって十分幸せなのに、どうしてそれ以上を望んでしまうのだろう。郁はスマホを胸に抱いて横たわる。熱が早く下がればいい。瑞に会いたかった。
.
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白