悠久に舞う 探偵奇談17
「あっ…!」
目を覚ます。喧騒に満ちたコーヒーショップの一角だ。午前中に部活動を終えた若菜は、駅前のコーヒーショップで瑞を待っていた。祖母に聞きたいことがあるとそう言っていた。
(わたし寝てた?今のは夢?)
桜の木と、あの声。若菜はあたりを見渡す。制服のグループやカップルでにぎわう店内に、夢の残滓などかけらも見当たらない。なぜあんな夢を見たのだろう。額にじっとりと汗をかいており、若菜はそれをハンカチで拭って気持ちを落ち着ける。
今日は祖母の退院の日。母が病院へ向かい、そろそろ家に帰っている頃だろうか。
(…みぃちゃん、どうするつもりなのかな。おばあちゃんが、何か知ってるのかな)
この得体の知れぬ底知れぬ不安が、どうにか終わってほしい。その一心だった。
「…なにこれ」
先ほど買ったココアのカップの中に、一片の桜の花びらが浮かんでいるのを見つけ、若菜は戦慄する。あの夢は、夢ではなく現実なのか?身体が震えてくる。
(みぃちゃん、早く来て…)
祈るように俯いたときスマホが震え、瑞が到着した旨をメールで知らせて来た。立ち上がって店内を見渡すと、背の高い制服姿がこちらを見つけてくれ、若菜は心底安堵する。
「お待たせ。こっち、俺の友だちなんだけど、不思議なことに詳しいから手伝ってもらおうと思って来てもらったんだ」
瑞は連れていた同じ制服の男子を紹介する。若菜はうまく言葉が出てこない。まだ恐怖が去っていないのだ。
「若菜ちゃん真っ青だけど、どうした?」
異様な様子に気づいてくれた瑞に、若菜はココアのカップを見せる。
「花びら…?何があったの?」
「夢に、あのひとが…」
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作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白