悠久に舞う 探偵奇談17
会えない日も
翌日土曜日の朝。
休日の自主練習に郁の姿がない。部員の殆どが土日のどちらかの午前中に来る中、郁は土日両日ともに練習に来ていたから、いないと違和感があった。
「先輩、一之瀬は?」
瑞は伊吹に尋ねてみた。主将は今日は胴着姿ではなく私服姿で、こまごまとした書類を片付けている。年度末が近づき、部誌の整理やら三年生からの引継ぎやらで忙しいのだという。
「一之瀬は、なんか熱でたから休むってメールきてたぞ」
「熱ですか…」
昨日弓道場に残って若菜を気遣ってくれていた郁。もしかしてあの後、雨に降られたのだろうか。心配になってくる。
「珍しい。いっつも元気なのに」
瑞が言うと、伊吹が顔を上げて同意した。
「そうだな。あいつが休むって、今まであったかなあ…」
「ですよね…」
うまく、喋れていただろうか。瑞は昨日の郁とのやりとりを思い出す。彼女の思いに気づいてから、今まで通りに関われなくて、どうしていいかわからなくなることがある。恋だのなんだのを差し引いても、やっぱり大事な友だちに変わりはなくて、関係が崩れてしまうことが恐ろしい。
伊吹はそんな瑞の気持ちを知っていてくれている。だからだろうか、大丈夫だよというように柔らかく笑ってくれた。
「あとでメールしてやれば?」
「そうします」
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白