悠久に舞う 探偵奇談17
「昔は可愛かったんだけどなあ。図体と反抗的態度だけでかくなっちゃった」
紫暮のそんな言葉にひとしきり笑っていると、瑞と若菜が戻ってきた。
「若菜ちゃん、送るよ」
「うん。みなさん、ありがとうございました」
紫暮と若菜が弓道場を去る。小さな肩が震えていたことを思い出し、郁は早くあの子が安心できる日が来ますようにと祈る。瑞ならきっと、解決してくれるはずだ。
「さ、俺らも片付けちゃおう」
「…」
「なんだよ瑞、ブーたれて」
瑞が何やら気に入らないという表情をむっつりと浮かべているのを見て、ああ、と伊吹が笑う。
「聞いてたのか、お兄さんの話」
「ふん」
先ほどの紫暮の話を聞いていたらしい。
「いいお兄さんだね…あんなふうに気にかけてくれるって、すごく嬉しいことだよ」
郁は言った。取り繕うでもお世辞でもなく、本当に思う。自分の振る舞いを悔いて、兄らしいことをしてやりたいと言う紫暮。家族だなと思う。紫暮の気持ちはきっといつか、瑞にも届くはずだ。郁は長女だから、お兄ちゃんやお姉ちゃんには憧れる。言葉や態度には出さずとも、大切に見守ってくれる存在に。
「…でも小さいときの恨みは忘れないもん」
あ、末っ子坊主だ。郁は笑った。素直じゃないんだから。普段は自分よりずっと大人っぽく思える瑞なのに、こういうときは子どもみたいだ。
「おまえって結構シツコイ性格なんだな〜」
「シツコイ!?」
「うん。ねちっこい」
「ねちっこい!?!?」
伊吹にそんなことを言われてしまって、ショックを受けている姿もまた子どもっぽい。
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白