悠久に舞う 探偵奇談17
そっか、だからあんなふうに素直になれないんだ。郁はそう思う。後悔している紫暮と、それによって寂しい思いをしたであろう瑞。
「ばあちゃんだけが、同じものを同じ目線で見て、共感してくれたんだと思う」
瑞にとっての祖母の存在の大きさを改めて知る。同じ匂いを纏っていないと不安だという瑞の拠り所。見た目のタフさとは裏腹な繊細さに触れるたび、郁は心が揺さぶられるような気持ちになる。弱さを含めて、自分は彼を好きなのだ。
「ばあちゃんが死んで憔悴しきってる瑞を見て、初めて思えたんだ。あいつの見てる世界や感じてることを、俺もわかってやりたいって。その埋め合わせじゃないけど、兄貴らしいことでもしてやれないかなって思ってるんだけど、相変わらず嫌われてる」
「…嫌いってことはないと思います」
そう言ったのは、伊吹だった。
「だって嫌いなら無視して突っぱねたらいいだけだから。家族だから、大事なひとだから、あいつ揺れてるんだと思います」
嫌いなら、もう関わらなくていいだけの話。だけどそうならないのは、素直になれないのは、心のどこかで自分をわかってほしいと思っているからなのだ。嫌いな人間に、自分をわかってもらおうなんて思わない。
「そうかもしれないね」
「すみません、俺、知ったようなこと…」
伊吹が慌てて謝ると、紫暮はそんなことないよと言うように優しく笑った。
「祖父が言うんだ。弓道部の先輩や友だちがちゃんとしてくれてるから、瑞は心配ないよって」
ありがとう、と紫暮が続ける。
「友だちでいてやって下さい」
頷く。兄は兄なりに弟を思っているのだ。家族なんだなと郁は思う。瑞にもいつか、きっと紫暮を許せる日が来るはずだ。
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白