悠久に舞う 探偵奇談17
契約は扉を叩く
昼休み。食堂に行こうかなと友だちと話をしていた天谷颯馬(あまたにそうま)のもとに、瑞がやってきた。話がしたいというので、揃って教室を出る。特別進学コースの自分は普通科コースの瑞とはクラスも離れていて殆ど接点などない。しかし今日まで様々な縁により関わりを持ってきた。颯馬は友人だと思っている。性格も趣味も絶対合わないのに、なぜか嫌いじゃない。瑞はどう思っているかはわからないけれど。
「めずらしーね、瑞くんがうちのクラスまで来てくれるなんて」
だからこうして瑞が自分を訪ねてくれると嬉しい。友だちだと思って頼ってくれているのかな、と。人目を避けてか中庭に出る。今日は小春日和。ぬくぬくとベンチに座っていると寝そうになってしまうが、瑞は深刻な様子で切り出した。
「あのさ、夜な夜な家に入れてほしいって訪ねてくるような、そういう妖怪とかオバケっているのかな」
それを聴いて颯馬はピンとくる。また何か怪奇現象の解明のために奔走しているらしい。
「なにそれ。そういう訪問者がいて困ってるの?」
「俺じゃなくて、近所の子が」
瑞は個人情報が漏れないようにか詳しいことはぼかしつつ、知らないモノが訪ねてくるという経緯について語った。颯馬は神社の子で、そういったことに多少は免疫があるから、知恵を借りようと思ったのだろう。
「その子はさ、ヒトから恨み買うような子じゃないんでしょ?」
「うん」
「じゃあメリーさんとかストーカーしか思い浮かばないよ」
執拗に訪ねてくる。家にあげろとやってくる。それはもうメリーさんかストーカーだ。しかし瑞は人間ではないと断言する。そしてメリーさんのように曖昧模糊な都市伝説などではないとも。彼は真剣だ。だから颯馬も真剣に考える。
「うーん…家主の許可がないとあがれないっていうのは、なんてゆーか、変なトコで礼儀正しいよね?」
「そうなんだよ。押し入ってくるわけでも、脅すわけでもないんだ」
そこが瑞も引っ掛かるようだ。
「許可がないと入れないっていうのは、イエの玄関が結界の役目を果たしているか、家主との間に契約があるってことだと思うよ」
「契約?」
「そー」
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白