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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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悠久に舞う 探偵奇談17

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人は、視えないものなど信じない。瑞の話を鵜呑みにすることなど、賢い兄には出来なかったのだと思う。

おまえは弱虫だから。おまえは泣き虫だから。逃げているだけなんだ。

そんな理由で片付けられて悲しかったことも忘れない。

布団を被って目を閉じる。どうあっても兄とは分かり合えないのだと、幼くして瑞は悟ったのだ。小さくても、子どもでも、たぶん自分はものすごく傷ついたのだと思う。だからいまでも紫暮に対して素直になれないし、本音で話すことが出来ないのだろう。

でもそれでいい。各々の価値観があるのだから、他者のすべてを分かり合うなど不可能なのだから。たとえ家族であっても。




*****

紫暮は和室の一角で先ほど若菜の家で体験したことを反芻していた。あの奇妙な会話と、現実離れした存在感の黒い影。一体何なのだろう。

(おばけ…ようかい、とか?)

現実主義者の紫暮は、自分の目で見たものしか信じない。人のうわさ、幽霊が出ただのという与太、そんなものに惑わされない。自分の目でみて体験したことのみが事実だと思っている。だから幼いころ、瑞が話す不可思議な現象を信じることが出来ず、「視えない自分」はそれを一蹴した。

(それが悪かったのかな)

甘やかしたことはないと思う。厳しく接してきた。保育園の送り迎えもしたし、宿題を見てやったこともあったし、悪さをしたら叱ってきた。昔は懐いていた弟が、徐々に自分を疎ましく思うようになるのは自然なことで、思春期を迎えた瑞は自分から口をきくことも殆どなくなっていった。

弟ももう、自分のことは自分で決められる年齢だ。そこに責任さえ伴っていればいい。だから京都を離れて一人祖父のもとへ行くと言った弟に、紫暮は反対しなかった。しなかったけれど、心配だったのは本当だ。

(どう接してやればよかったのか…)

他人に迷惑をかけるな、親を悲しませるようなことはするな。それは愛情なのだろうけれど、どこか自分本位なものであったのかもしれない。信じてない癖にと激高した弟の中には、幼い頃さんざん訴えたのに気にかけてもくれなかったじゃないか、という非難があったのだろう。






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