悠久に舞う 探偵奇談17
何を意味しているのだろう…。
「――おまえ大丈夫か?」
居間から出て自室に戻ろうとしたとき、風呂場から出てきた紫暮に声をかけられた。
「え?」
「いま、うなされてなかったか?若菜ちゃんの家でも具合が悪そうだった」
別に、と愛想なく言って自室の戸を開けた。
「あの子を訪ねてくるのは、化け物なのか?」
紫暮の言葉がさらに追いかけてきて、瑞は思わず振り返る。
「化け物なんているわけないだろ、信じてない癖に…!」
自分でもびっくりするくらい尖った声が出た。紫暮も少し驚いたような視線を向けてくる。それきり何も言わせないよう、瑞は部屋に入って戸を閉めた。
(今更、わかってもらおうなんて思わない…)
子どもの頃のことを思い出す。瑞は、「視える子ども」だった。だけど、家族の他の誰も、視えなかった。母も、父も、兄も、姉も。祖母だけが、瑞と同じものを視て、その恐怖や疑問を共有してくれた。
紫暮は、視えないものが見えるという瑞を理解しなかった。当然だと思う。
年が離れているけれど、甘やかされた記憶は一切ない。忙しい両親に変わり、兄は自分に父親のように接していたのを覚えている。幻想の世界に逃避して、現実を直視しない子ども。常識人で現実主義な兄には、瑞がそんなふうに映っていたのかもしれない。
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白