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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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悠久に舞う 探偵奇談17

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見えない心と



紫がかった夜の闇の隙間を、光るモノが落ちてくる。ひらひらと、ゆっくりと舞い落ちてくるもの。花びらだ。

瑞はそれを眺めている。光の破片のように白く光るそれは、たぶん桜だ。夜の中を舞い落ちてくる光を帯びた桜の花びら。

振り返った瑞が見たのは、見上げるほどの巨木だった。しかし花はつけておらず、だらりとした大きな枝を、まるで腕の様に力なくぶら下げているだけだ。命を失ったようにひび割れ、腐れている木。花びらは、その巨木の根元に吹きだまっており、風が吹くたびに夜の紫に舞うのだった。

命のない桜の木。その割れた根元から零れ落ちてくる光る花弁。

(命が、この木から零れ落ちていくみたいだ…)

その袂に屈みこみ、溢れてくる光に目をこらす。美しいのに、恐ろしい。この世に存在しない光景だからだ。死んだ木が、花びらを吐くなんて。

風に乗って、何か聴こえる。耳を澄ますとそれは、ひび割れた木の袂から聞こえてくるようだった。

「なに…」

か細い、音。声?歌?
もっとよく聴こえるようにと顔を近づけた瑞は、吹きだまっている桜の花弁のその隙間に、ぎょろりと光る眼玉を見た。驚いてあとじさった瑞の腕が、吹き溜まりから飛び出した土気色の指に掴まれる。



「うわあっ!」



瑞は起き上がった。夢?どうやらこたつで居眠りをしていたようだ。柱時計は午後11時を過ぎている。じっとりと汗をかき、喉がからからだった。

「焦った…」

思わず、夢で掴まれた右手首を見る。かさついた、ささくれだった指の感触が残っていてリアルだ。

(まずいな、これ多分若菜ちゃんちのあれが関わってる…)

子どもの頃から何度もあった。この世のモノでないものにあてられて、頭痛がしたり動悸がしたり夢に見たり。生きていない者に対するアンテナというのが制御できないのだ。大きくなるにつれ、少しずつ距離をとるすべを身に付けてきたが、久しぶりに向こうの気が強いモノに触れてしまったようだ。

死んだ桜の木。根元に潜んでいた目と手。