悠久に舞う 探偵奇談17
「入れてはいけない」
「…だめ!」
若菜の言葉に、影が反応した。
「青いのはトゲですか」
意味不明の返答の後、またしても。
「入っても、いいはず、です」
だめ、だめ、だめと若菜が絶叫する。
「絶対に入ってこないでッ!!」
この家に入りたいと、そこだけは明確な目的を持っているようだ。気味の悪い返答と言葉には意味などなく、の影はこの家に入ることだけを目的としている。そういう気が、瑞にはした。
「やくそくしたのに」
そう呟き、影は離れていった。瑞を取り巻いていた気味の悪い感覚が、頭痛とともに消え去る。正常な空間が戻ってくる。大丈夫、もう危険はないはずだ。
「…消えた」
瑞は玄関に駆け寄って勢いよく開けた。誰もいない、何の気配もない。
「あたりを見てくる。瑞、若菜ちゃんを連れてじいちゃんのところに戻ってろ」
紫暮が足早に夜の中に消えていく。
「あいつ、うちに入りたいの…?」
呆然と呟く若菜。麻生家に入ることに執着している、訪問者。なんのために?
(…なんの香り?)
闇にふわりと、懐かしいような微かな香りが舞っている。それは一瞬のことで、すぐに霧散してしまった。
若菜は迎えに来た母親とともに家に帰って行った。あのあと近所を見回った紫暮だが、誰もいなかったという。あれはやっぱり人外の者だ。瑞にはわかる。
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作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白