悠久に舞う 探偵奇談17
ぞくっと全身が粟立つ。びくりと身体を震わせて足を止めた瑞を、二人が訝しそうに見てくる。
「みぃちゃん?」
「…なんか、変な感じする…」
ぐわん、と視界が回るような不快感。耳鳴り。この感覚は覚えがある。本能からの警告だ。危険が迫っているという。何かきた。何かが起こってる。
「瑞?」
ガシャ、ガシャ。
「!」
玄関から、音がする。ガラス戸を叩く音だ。いや、と若菜が耳を塞ぐ。来たのだ、あれだ。
「来たのか」
「紫暮くん!どうしよう!」
「大丈夫。俺も瑞もいるから心配しなくていいよ」
兄は落ち着き払っている。自分が慌てれば若菜が恐慌状態に陥ることを知っていのだ。いつもと何ら変わらない声で言って、にこっと笑う。
「もしかしたら心配してきてくれた近所の人とかお母さんかもしれないから、見に行こう」
「うん…」
紫暮はそう言うが瑞にはわかる。いま玄関の戸を揺さぶっているのは、生きた人間じゃない。
階段を降りきったら、広い玄関があり、ガラス扉はすぐそこだ。すりガラスの向こうに人影がぼんやり映り込んでいる。誰か立っている。背の高い、帽子を被っているかのようなシルエット。
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白