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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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悠久に舞う 探偵奇談17

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温かいお茶を入れたところで、紫暮が静かに切り出した。

「若菜ちゃん、おうちに帰りたくない理由って、何かあるの」

瑞も気になっていた。何が嫌なのだろう。寂しいのなら、テレビをつけるなり寝てしまうなりすればいいのに。それは瑞の主観だから若菜には効果がないのかもしれないが。しかし冬の寒空の下で震えて待つほど帰るのが嫌というのは、よほどの理由があるのだと思う。

「何か困ってるなら言ってご覧。一人で家にいたくない理由があるんじゃないのかな。無理には聞かないけど」

紫暮があくまでソフトに聴く。若菜は何度か逡巡するそぶりを見せたが、やがて言いにくそうに口を開いた。

「おばあちゃんが入院してから…家に変なひとが来るんです」

変なひと、と瑞は繰り返した。不穏な響きに、若菜を取り巻く空気の温度が下がった気がする。





*****

それは祖母が入院した翌日のことだったという。
夜の八時前だろうか。母の帰りを待って部屋でテレビを見ていた若菜は、玄関の引き戸を叩く音を聞いた。ガシャガシャ、と。古い家だからチャイムもない。近所の人はいつもそうやって祖母を訪ねてきていた。

「はあーい」

ギシギシ軋む階段を降りて玄関に向かう。玄関ホールの電気をつけると、引き戸のすりガラスの向こうに、黒い影が立っているのが見えた。背が高い人間のシルエット。頭の上は帽子を被っているのか少し盛り上がっている。誰だろう。こんな背の高いひと近所にいただろうか。

ガシャガシャと引き戸を叩かれたので我に返る。

「ごめんなさい、いま母も祖母も留守で…」

そう声を掛けたが、返ってくるのは沈黙だけだった。何も言わず、こちらの言葉に耳を傾けている気配が伝わってくる。


「入りたいのですが」


黒い影の声が、ガラス戸越しに響いた。妙にざらついた男の声だった。若くない。だけど、妙に高い声音だなという印象。