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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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悠久に舞う 探偵奇談17

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「聞いてないよ…」
「言ってないからな」

あっけらかんと笑う紫暮。昔からそうだ。瑞の都合などお構いなしに振る舞うのだから。ストーブの上のやかんから急須に湯を注ぎ、兄はうまそうに茶をすする。
夜。一緒に帰宅して祖父とともに夕食を終えてから、瑞は兄に何の知らせもなくこちらへ来たことへの不満を告げた。

「…言っとくけど俺、京都には戻らないよ」

毅然とした態度で瑞は兄に向き合った。
こちらで祖父と暮らし始めて一年が経とうとしている。何か問題を起こすようなら即連れて帰るという母の宣言を恐れ、瑞は真面目に頑張ってきたつもりだ。なのに兄が年度末のこのタイミングでやってくるということは、京都に戻れと言うことではないのか。納得できない。

「約束はちゃんと守ってる。勉強も部活もきちんとしてるし、じいちゃんには迷惑かけて…かけて、ない、はずだし」

語尾がちょっぴり自信なさげなのはどういうことだ、というように紫暮が小さく笑った。テレビを見ていた祖父が、「瑞は頑張ってるよ」と言ってくれる。

もうここには、大切なものがたくさんあるのだ。戻って来いと言われても、瑞は戻るつもりはない。そんな瑞の思いを見透かしたかのように紫暮は笑う。

「瑞。勘違いしてるみたいだけど、俺は別におまえを連れ戻しにきたわけじゃないよ。母さんとの約束守ってることはちゃんと聞いてるし、問題も起こしてないっていうし。いればいいだろ、それは努力と引き換えにしてるおまえの権利なんだから、誰も文句はない」

あっさりと言われ、瑞は逆に構えてしまう。ではなんで来たのだ?

「じゃあなんで…?」
「特にないよ、理由なんて。まあどうせ教育実習するなら弟の高校生っぷり見るのも悪くないかなって。じいちゃんにも会いたかったし。もう春休みに入ってるから、しばらくはこっちにいられるんだ」

やっぱり監視じゃないか。ぶーたれる瑞などお構いなしに、紫暮はいそいそと将棋盤を出してきた祖父と、将棋を始めるのだった。何だか納得できない理由だ。もしかして実習期間中に瑞の粗さがしをして隙をみて京都に連れ帰るつもりなのでは…と、瑞の疑心暗鬼は止まらない。それを口にすると、兄は困ったように笑った。

「信用ないなあ」
「…ない」

まあいいけど、と紫暮はさして興味なさそうに言うのだった。瑞にとっては死活問題だというのに、この野郎めと憎々しい。