悠久に舞う 探偵奇談17
夜に立つ影
「四月から教育実習生としてお世話になります、須丸紫暮です。弓道部の指導にも入るので、みなさんとは関わる機会も多いと思います。どうぞよろしく」
「須丸先生は挨拶に見えたんだが、今日はせっかくだし稽古を見ていただこうと思う」
顧問に紹介されたのは、瑞の兄。郁はまじまじと見入ってしまう。背の高い、穏やかな雰囲気の人だった。人当たりのよい雰囲気、柔らかな喋り方。
「副将の兄貴だってよ」
「そういやあいつ、三人キョウダイの末っ子って言ってたな」
「そんで瑞どこいったん?」
「なんか腹いてーんだとよ。さっき更衣室で倒れてたぜ」
瑞はというと、兄の訪問を知らされていなかったようで、大いに驚き、ついには具合が悪くなってしまったという状態らしい。
(お兄さんかあ…)
郁としてはちょっとどきどきしてしまう。好きなひとの兄というならなおさら興味が沸く。女子部員は彼に見惚れ、ぽややんとした顔で弓を引いている。聞けば弓の腕もかなりのものらしい。稽古を見てもらえるというのはチャンスだ。早気を克服するためのヒントをもらえるかもしれない。
巻き藁室に向かうと、そこに浮かない顔の瑞がいた。
「だ…大丈夫?」
「うん…」
そんなに兄がやってきたことが嫌なのかと尋ねたら、怖いんだもんと瑞が言う。
「優しそうだけど…」
「俺にだけおっかないの」
作品名:悠久に舞う 探偵奇談17 作家名:ひなた眞白