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コート・イン・ジ・アクト2 通り魔が町にやってくる

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06



少なくとも、顔に布を巻きつけた人間がいれば一目でわかる。だからやっぱり別に部隊が出動しなくてもいいだろう、ということになった。

通り魔殺人で厄介なのは事件に刺激を受けて真似するやつが出てくることだ。だから『まさか』と思っても、人命が懸かっているからには『どうせあのおっさんに決まってる』という賽目に全額張るわけにいかない。覆面されちまった以上、一応は別人の可能性もあることを頭に入れとく必要がある。

でもまあ、不恰好な走りで飛び出てきたのを見れば間違うわけがなかった。同じ灰色コートだし。

「ハイそれまで」

グロックを向けるとおっさんはピタリと動きを止めた。

十二月の陽が短いのは昔も今もおんなじだ。おれと零子がボーリングで時間を潰している間に、陽はすっかり落ちていた。クリスマスのイルミネーションが、街をキラキラ彩っている。

「お兄さん達、昼間もここで同じことをしてたでしょ」

と、犬を連れたおばちゃんが寄ってきて言った。そう言や犬に見覚えがあるが、このおばちゃん、ひょっとして一日中この通りを行ったり来たりしてんのか? 犬はおっさんに近づいて、珍しい匂いでもするみたいにクンクン嗅いだ。

「ほらほらダメよ、お仕事の邪魔しちゃ」

はっきり言って、おれは気が立っていた。おっさんを伊勢佐木署までしょっぴくと、おれは中に入る前に、暗い物影に引っ張り込んだ。手錠したままのおっさんの胸倉つかんで壁に背中を押し付けさせる。

そして言った。「わかってんのか、自分が何やってるか! 冗談じゃ済まねえんだぞ!」

「なな、なんすか」

「おれがチャカ向けたとき、あんたおとなしく止まっただろう」

「それが何か悪いんですか?」

「わるかーねーよ。だが言っておくけどな、ちょっとでも従わねえ素振りを見せたらおれはあんたを撃ち殺してた! 武器を持ったら冗談で済むことなんてひとつもないんだ。それがわかってんのかって訊いてんだよ!」

「あたしは別に――」

「本当に人を傷つけるつもりはない、とでも言うわけか。生憎な、それを信じるわけにはいかねえんだよ。虎を飼ったらどんなに慣れても背中を向けちゃいけないようにな。もしあんたの気が変わって、そのときおれが油断してたら人が死ぬ。そうなったらその結果はリセットできない。可能性がわずかでもあればあんたを撃つ――おれはそう訓練されてる。わかったらおれにそんなことをさせるな! あんたを撃ちたくなんかないからこう言ってんだ。だからこんなことはやめろ!」

「なんだよ」

と言った。オドオドした負け犬の顔に、噛み付くような色が浮かんだ。

「だったら撃てばいいじゃないかよ」

「え?」

「撃てばいいじゃないですか! 撃ち殺してくださいよ! あたしなんか生きてたってどうせいいことないんすからね。サッサと撃って終わりにしてくださいよ!」

「いや……」と言った。こっちがたじろぐ番だった。「おれはただ……」

撃ちたくないのにこのおっさんを撃つことになっていたかもしれないから頭にきてただけだった。人殺しの訓練は受けても、こんなことで人殺しになるのはイヤだ。だから、ただ、それだけで、別にあんたに悪い感情を持ってるわけじゃ――。

おれはそう言おうとした。だが言葉は出なかった。おれはおっさんから手を離した。

おっさんはおれを睨みつけている。

「ごめん」おれは結局言った。「その……今のは悪かった」