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コート・イン・ジ・アクト2 通り魔が町にやってくる

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03



「サッキュウ(殺人課急襲隊)さんよお、こんなの連れて来ないでくれよな。年末でこっちは忙しいんだからよ」

伊勢佐木署のデカ部屋で、報せを受けて待ってた刑事がおれ達の顔を見るなり言った。

おれは、「そんなこと言ってもしょうがないでしょう」

「撃っちめーばよかったじゃんよ。通り魔なんだろ? 殺したって全然かまわねんだろが」

「まあ、それはそうなんですが」

だからってこんなやつが殺せるもんかとおれは思った。連れてきたマルヒ(被疑者)――殺すことなく捕らえたマルタイ(対象者)は刑事に渡すときにはそう呼ぶことになる――はニコニコしながら頭をかいて、「どーもすいやせん」と言った。まったく反省の色はない。

『ごめんで済んだら警察は要らない』とはよく言うが、

「名前は田沼正平(たぬましょうへい)だな」

刑事はカチャカチャとコンピュータのキーを叩いて、

「去年は東京の蒲田でやった」

「こっから京浜急行です」

「その電車に乗って帰れ」と言った。「わかってんのか、あんた。ここは神奈川だぞ。東京じゃ有名だったかもしれないが、川を越えたら違うんだ。誰もあんたと知らないんだから、殺っちゃってから気づいてももうリセットは利かないんだぞ」

「はあ……でもあたし、こっちに流れてきたもんすから」

「流れてくるな。つーか、どうせならもっと南の、小笠原とかサイパンとかグアム辺りまで流れていけよ」

「はあ。できるならそうしたいすが」

「それで?」ため息をついて言った。「このおっさん、今日は何人殺るはずだったの」

零子が言う。「三人です」

「ホントすんまへん」

「悪いと思っていねえだろ」と刑事。「それは未然に防がれた。それじゃ誰かに傷を負わせたとか、何か物を壊したとかは」

「ありません」

「パイ(釈放)だ」と言った。「いいよあんた、もう出てって」

「そりゃないんじゃないんですか刑事さん。無差別通り魔殺人鬼を野に放つ気なんですか?」

と無差別通り魔殺人鬼が言った。

「お前さんのどこが通り魔つーんだよ」

「だってあたしはほんとにやるはずだったんすから」

「でも未然に防がれたんだ。だからもう、あんたを捕まえとく理由がない」

「それでいいんすか?」

「いーんじゃねーの? あんただって、別にムショ(刑務所)に行きたいわけじゃねえだろう」

「いや、あの、ええと」口ごもった。「いいですか刑事さん、あたしは包丁持ってたんすよ」

「それがなんだよ」

「銃刀法違反ですよ。たとえ料理包丁だって、街中(まちなか)で振りまわしたら罪になるんじゃないんですか」

「包丁振りまわした次は、法律振りかざすってわけか。ちょっと聞くけど、その包丁、どっかから盗んできたのか」

「いえ、買ったもんですけど」

「わかった。じゃあ没収だな。また別の包丁を買いな」

「そりゃないっすよ」

おれと零子は口を挟むこともなく、後ろに控えてこのやりとりを聞いていた。殺人課の他の者らは、このおっさん――田沼正平の正体に気づくとすぐに『バカバカしい』と言って引き揚げてしまい、残されたのは下っ端であるおれと零子のふたりだけだ。

「いいですか刑事さん」

と無差別通り魔・田沼正平。

「街で刃物を振りまわせば、それだけで暴行罪になるんです。あたしのしたことがそれっすよね。これは〈二年以下の懲役〉か〈三十万円以下の罰金〉と刑法で定められてるじゃないですか」

「へえそうなんだ。でも『罰金』と言ったってどうせ払えないんだろ?」

「そのときは刑務所で働いて払う決まりじゃないですか」

「だからムショに行きたいわけじゃないだろうに」

「いやその……ええと、刑事訴訟法によれば、定まった住居を持たない人間が罪を犯した場合には、二ヵ月間の拘留をして裁判をやるということになってます」

「二ヵ月あればいちばん寒い時期は過ぎるな」

「えーとまあ、それはその……」

通り魔は口ごもった。それに向かって刑事は言った。

「ヒョーロクダマが要らねー知恵つけやがって。そーゆーのはなあ、ひったくりやら車上狙いで食っていやがるダニ野郎を檻に入れとく法律なんだよ。おめーみてーなのにいちいち当て嵌めねーの!」