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「あの世」と「寿命」考

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「ところで鏡の世界なんだけど、それを別の次元だという発想にはならなかったの?」
 と裕子が聞くと、
「そう思った時もあったのよ。でもね、鏡は一個だけ見ているだけでは疑問にあまり感じないでしょう? 改まって考えれば。これほど興味深いものはないのに、一つだけだとあまり意識しない。意識しないように仕向けられているのかも知れないんだけどね。でも、鏡を自分の前後や左右に置いた時、自分の姿が無限に写っていくのを感じたことあるでしょう?」
「ええ」
「私も最初に感じた時は、衝撃的だったと思っている。それがいつだったのかと言われると覚えていないんだけど、その衝撃に輪を掛けたのが、遊園地で入ったミラーハウスだったのよ」
 と綾子は遠い目で言った。
「ミラーハウスには私は入ったことがないの。テレビのミステリーで見たことはあったけど、確かにあれは気味が悪いわね」
 と裕子が言った。
 裕子は子供の頃から、ミーハーは嫌いだった。皆が入ろうというものに、あまり興味を抱くことはない、どちらかというと天邪鬼的なところがある変わった女の子だった。そのおかげでいろいろな発想ができるのだと自分で感じているので、天邪鬼でもいいと自分に言い聞かせていたのだ。
 そういう意味で、綾子と友達になったのも必然だったのかも知れない。元々は綾子から声を掛けてくれたのだが、綾子には裕子の他の人にない魅力が見えたようだった。
「ミラーハウスもそうなんだけど、鏡が複数になると、一つでは考えられなかったことが一気に噴き出してくる。その時に一つの鏡を思い返した時、初めて感じる鏡というものへの興味深さを考えると、複数の鏡に感じた誰もが感じる不思議な状況よりも、さらに興味深いように思ったわ。だからね、鏡は単独では何も起こらない。そう思うと、違う次元ではなく、次元は同じだと思ったの。でも、明らかに自分たちの世界とは違う。そう思うことで、鏡の世界が別の世界だって感じたのよ」
 という綾子の説明は、裕子には理解できた。
「私はね、鏡って一つでも結構面白いと思うのよ」
 と裕子が言った。
「というと?」
「鏡って、写った相手は左右対称でしょう? でも、どうして上下対称ではないのかしらね?」
 という裕子の話にまた綾子は興奮した。
「そうなのよ。私もそれがずっと疑問だったんだけど、心理学的な発想なのかしらね?」
「理由はあるらしいんだけど、私が敢えてその理由を調べたりはしなかったの。答えとしては説があるのでしょうけど、私は私なりに結論を見つけたいと想っているよね。見つけたとことで、説を調べてみたいと思うの。おかしいかしら?」
「そんなことはないわ。私も同じように感じていることってあるもの。なるべく答えを見ずに、自分だけの発想を組み立ててみたいと思うのは、裕子だけの思いではないと思うわ」
 と綾子が言った。
「じゃあ、夢の世界というのは、どっちなのかしらね?」
 と裕子が話を元に戻した。
「私は、今の鏡の世界の発想を踏まえて考えると、夢の世界は別の次元だと思っているの」
「というのは?」
「夢って、本当にその人だけのものなのかしらね?」
「どういうこと?」
「夢は人それぞれ見るもので、それはいわゆる生活の一部のようなものよね。夢の中にたとえば他の人が出てきても、その人は夢を見ている人が作り出した幻影でしかない。また夢というのは、その中でもう一人の自分を作り出すこともできるでしょう? 私は今までにもう一人の自分が出てきたことを何度か感じているの。どうして感じるかというと、自分が出てくる夢が一番怖い夢だって感覚があるからなのよね。もう一人の自分にはすべてを見透かされているようで、しかも、もう一人の自分が表情を変えることはないの。じっと私を見つめていて、何を考えているのか分からない。自分のことが分からないということほど恐ろしいことはないということをいまさらながらに感じさせられた気がして怖いのよ」
 裕子は、まくしたてるように話す綾子に少し恐怖を感じたが、いつの間にか自分も綾子の話に引き込まれているのを感じると、感じた恐怖は綾子にではなく、自分に対してなのだということに気が付いた。
「私は夢は誰かと共有できるものなんじゃないかって感じたことがあったわ。夢を見ても目が覚めるにしたがって忘れてしまうので、その確証はほとんどないんだけど、忘れてしまっていくということは、覚えていられると何か困ることがあるからなんじゃないかって思えてくる。天邪鬼なんだけどね」
 と言って裕子は笑ったが、裕子が自分のことを天邪鬼だと感じていることを分かっている綾子にとって、笑いごとではないと感じ、笑うことはできなかった。
 だが、綾子にも裕子ほどではないが、天邪鬼なところはあった。
――人と同じでは嫌だ――
 と絶えず自分に言い聞かせていた。
 裕子も同じ発想を持っていたが、この発想に関しては綾子の方が頻繁に感じていた。特に裕子以外の人といる時、絶えず考えている。なるべく人と関わりたくないオーラをまわりにまき散らしているのは、裕子だけではなく、まわりの誰もが感じていることだった。
 綾子はそんな思いを隠そうとは思わない。人に知らしめることを恥ずかしいと感じる人もいるだろうが、そんな人に限って、
――まわりに自分のことを分かってもらいたい――
 と思っているのだから、それこそ矛盾した考えではないか。
 綾子は、まわりの人を見ていると、
――矛盾だらけじゃないか――
 と感じていた。
 矛盾を一つでも感じると、その人を信用できなくなるのが綾子だったが、実は裕子に対しての矛盾が一番多く感じている。しかし、裕子に関しては、自分と二人でいることで、二人の発想が無限にも広がっていくのではないかと感じるようになったことで、それ以外の少々のことは、大したことではないように感じるのだった。
――深く込み入った話をするには、相手は裕子でしかありえない――
 と思うようになった。
 裕子も同じことを感じてくれていると綾子は思っている。二人の話が飛躍していくたびに、自分たちが次第に別の世界か、あるいは別の次元を見つけられるような気もしていた。ただ、見つけた世界をすぐに忘れてしまうのではないかという思いも若干あって、見つけることで、二人の関係はマックスになってしまい、そこから先は発展性がないことで、一緒にいる意義がなくなってしまうのではないかという思いもないわけではなかった。その思いはお互いに持っていて、どちらの方が強いかというと、どうやら裕子の方に強そうな気がした。それだけ避けて通ることのできない結界を、裕子は持っているからではないだろうか。
 夢の共有については、綾子も考えたことがあった。誰かが自分の夢に入り込んでいたり、自分が人の夢に入り込んでいるという発想である。しかし、どちらの夢が強いのだろうか? それによって、自分が主人公なのか、脇役なのかが違ってくる。
――夢には、主役や脇役なんて考え方自体、不要なのかも知れない――
 考えているうちにそんな結論に達したことがあった。