小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

「あの世」と「寿命」考

INDEX|25ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「その時はその時。暴走の中から何かが生まれて、行き着くところに行くことで、何となく鞘に収まっているような気がするの。それが私と綾子の関係なのかも知れないわね」
 と言って裕子は笑った。
 それを見て綾子も微笑んだが、その気持ちは、
――あなたと一緒よ――
 と言っているのと同じだった。

               寿命と時間

 また別の日に綾子と裕子、二人で会話をしていた時のこと。その時はまったく別の話をしていたのに、どこから変わってしまったのか、またあの世とこの世の話に入っていた。どうやら二人はこの会話から逃れられないようである。
「あの世とこの世、どっちが居心地いいのかしらね」
 この言葉は裕子からだった。
 今回は裕子のこの言葉から、いつもの会話に発展したようだ。
「どっちがいいんでしょうね。私はこの世がいいような気がするわ」
「行った先が天国でも?」
「ええ、そう。私の発想としては、この世が一番自由な気がするの。たとえ天国に行ったとしても、そこでは自由はないような気がするのよ」
 という綾子の言葉に、
「どうしてそう思うの?」
「天国って想像するに、何も考えなくてもいいような世界のような気がするの。自由というのは権利でもあるんだけど、義務も発生するものだと思うのよね。権利があれば義務がある。それがこの世だとすれば、天国という世界であってもあの世には、義務はおろか、権利もないように思うのよね」
「それが綾子の考える『自由がない』という発想なのね」
「ええ、何も考えなくてもいい世界だったら、無秩序ということでしょう? 確かに無意識に秩序を持っている人ばかりが行く世界が天国だとしても、それぞれ人によって秩序の基準が違うんだから、誰かが治めていなければ、無節操な世界になってしまうでしょう?」
「それが神様であったり、お釈迦様だということなの?」
「想像されていることとしてはそういうことなんでしょうね。でも、本当に神様やお釈迦様なんているのかしらね?」
「どういうこと?」
「この世だって、警察や政府があって、世の中を治めているのに、いろいろな派閥や考え方があって、それが衝突する。理想の天国にはそういうことはない。それは皆同じ発想の元に治められているということになる。だとすれば、派閥や宗派の数だけ天国という世界があるのか、それともよほどのカリスマな存在があって、全能の神が存在するということなのかって思うわよね」
 というのが綾子の考え方だった。
「でも、ギリシャ神話などでは、全能の神であるゼウスというのは、結構嫉妬深かったり、負けず嫌いのようなところがあって、あれほど人間臭いキャラクターはいないように感じるんだけど」
 と裕子が反論した。
「そうね。でもだからこそ、人間にとっての全能の神なんじゃないかしら? 人間臭さがあるからこそ、人間がよく分かるとでもいうのかしら? 私はそんな風に感じるんだけど」
 と綾子は言う。
「でもね、天国って人間だけの世界なのかしら? この世だって人間だけの世界ではないでしょう? 他に動物もいれば植物もいる。限りないほどの生態系があると思うんだけど」
 と裕子が言うと、
「そうかしら? 生態系というのは一つだけで、その生態系の中に複数の生物がいるというだけじゃないの? その基本は弱肉強食。そう思うと、あの世ではお腹が減ったりしないという想像が許されるとすれば、他の生物は必要ないんじゃない?」
「そうだとすると、本当に殺風景な世界よね。それを天国と言えるのかしら?」
「じゃあ、裕子は天国ってどんな世界だって思っているの?」
 と言われ、改めて考えてみると、答えに詰まってしまった。
「もちろん、私にも想像できないわ。でもね、天国を想像するとすれば、それは地獄よりも難しいと思うの。何しろ、この世で悪いことをしなかった人が行くところだって考えられているからね。地獄の場合は、この世で悪行を尽くした人がいくと考えられているので、戒めという世界を考えればいいので、いくらでも想像はできるかも知れないけど、天国はこの世よりももっといいところだという大前提があるので、想像は難しいと思うのよ」
 という綾子に対して、
「ということは、この世ってそれほどいいところだと皆考えているということなのかしら?」
 という裕子は感じた。
「少なくとも天国を想像するのが難しいと考えている人はそうかも知れないわね。もっとも、天国というのが仏教で言われる極楽のような世界だと単純に信じている人も多いと思うんだけどね」
「それは悪いことじゃないと思うんだけど?」
「ええ、私はいい悪いの話をしているつもりはないのよ。あの世という別の世界が存在し、その中にはいくつかの世界があって、少なくとも天国と地獄という世界が存在するという一般的な考え方をそのまま想像すると、今言ったような発想も十分にありえるんじゃないかって思ったのよね」
「そういえば、この間あの世の話をした時、もう一つ、あの世が存在するんじゃないかって話にもなったわよね」
「ええ、宇宙のような果てしない世界を想像したような気がしたわ。それはまるで鏡を左右、あるいは前後に置いた時に見えている自分が限りなく写されているかのような無限ループの世界だって話をしたわよね」
「ええ、その鏡に写った自分はどんどん小さくなっていくんだけど、最終的にはどんなに小さくなっても消えることはない。限りなく無に近いものだっていう発想だったと思うわ」
 二人は、その時の話を思い出していた。
「そうね。無限ループを考えた時、私はそのループに寂しさを感じたような気がしたの」
 と言ったのは裕子だった。
 子供の頃に見たアニメを思い出していたからであって、そのアニメではずっと誰か身代わりになってくれる人を三百年も待っているという話だった。
――あの時の妖怪少年は、たぶん主人公が現れるまでは、自分の運命を受け入れていて、そのままずっとその場にいてもいいように思っていたように思うわ。きっと気が遠くなるくらいの長い間、寂しさを感じることで感覚がマヒしてしまって、果てしないその果てを見たのかも知れない。でも、そんな時にそれまで関わってこなかった人間に出会うことで、過去の自分を思い出したのかも知れない。欲が出てきたというべきなのかしら?
 と裕子は想像してみた。
 裕子の気持ちとしては、
――せっかく果てしないその果てを見たんだから、無の境地に陥ったに違いない。それなのに、なぜいまさらこの世に対しての未練を思い出してしまったのか、その少年の真意を計り知ることはできないけど、考えれば考えるほどおかしな気分になってくるわ――
 と想像していた。
 そのおかしな気分の正体をすぐには理解することはできなかったが、理解できてしまうと今度はすぐに自分で納得することはできた。
――あれは虚しさだったんだわ――
 虚しさというと寂しさからの発展系のように思っていた。
――ということは、妖怪少年の気持ちを私が受け継いだような感覚に近いということなのかしら?
 と裕子は思った。