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「あの世」と「寿命」考

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 と、天国を思い浮かべてみた。
――あれ? 天国って、どんなだったっけ?
 裕子は天国の想像が急にできなくなってしまったようだ。
 綾子の発想では、釈迦のいる場所で、そのほとりには蓮の花が咲いているといっていた。それは裕子も同じ発想だった。裕子も綾子も、天国も地獄もほぼ同じ発想をしていたのを話しながら感じていた。
 しかし、
「私は、皆と同じ発想をしたくないの」
 と綾子は言っていた。
「それは私も同じなのよ。だから、いろいろな天国や地獄を思い浮かべてみたんだけど、どうしても無理なの」
 と裕子は言った。
 それに対して綾子の意見は、
「私も同じなのよ。でも最近、何となくどうしてなのか分かってきたような気がするのよ」
 と綾子の言った言葉に、裕子は少し不安を感じた。なぜなら、綾子が今言おうとしている言葉は、裕子が考えているのと同じことだと思えてならなかったからだ。
「どういうこと?」
 と、裕子は分からないふりをして聞いてみたが、
「どうやら裕子には分かっているようだけど、それは、天国と地獄を創造しようとして、それぞれ自分たちが意識している世界以外というのは、孤独以外の何者でもないと思うのよ」
 という綾子の言葉に、裕子は一瞬後ずさりした。
――やっぱり――
 考えていることは同じだった。
 裕子はそれでも口を挟んだ。
「私は孤独を悪いことだとは思っていないんだけど、孤独が果てしなく奥の深いものだって思っているの。それが恐怖であるんだけど、それでも悪いことだって思わないのよ。だから、天国と地獄という両極端な究極の発想には、孤独を絡ませたくないの。綾子も分かっているようね」
 と、裕子の方が今度は挑発的になっていた。
「そうね。孤独というのは、果てしないもので、果てしないものを究極の発想に結びつけることは、永遠に解くことのできない問題に挑戦するようなものだからね。私にはとってもできないわ」
 と綾子が言った。
「でも、それは臆病だからできないわけではなくて、ただ、天国と地獄には孤独なんて存在していないと思いたいだけなのよね。本当の孤独は他に存在していると綾子は考えているんじゃないの?」
「ええ、天国と地獄以外に、もう一つ究極の存在があるんじゃないかって思うのよ」
「それがさっき話していた宇宙に通じるものなの?」
「ええ、そうよ。宇宙って果てしないものじゃない。孤独の果てしなさは宇宙の果てしなさい。そして宇宙は今のこの世界とも直結していると思うのね」
「じゃあ、あの世と呼ばれている天国と地獄とは直結していないの?」
「いいえ、私は直結していると思うわ。裕子もそうでしょう?」
 綾子に言われると、ウソには聞こえない。
 もっとも、同じ発想は裕子も持っていて、綾子と同じ内容のものに違いない。
「宇宙って昔は天体が回っていると思われていたでしょう? でも今は地球が回っているといわれている。世の中の常識が覆った瞬間があったんだけど、そのためにたくさんの人の犠牲から成り立ったものよね。そもそも天体が回っているという発想も、すべてが自分たちが中心であり、それはまわりのことを何も知らなかったという発想と、世の中を統治していくための洗脳の道具としてのプロパガンダが、そこに存在しているからなのよね」
 と綾子が言うと、
「言ってしまえばそういうことになるんでしょうけど、味気ない発想にしかならないのは、どうにもやるせない気分だわ」
 と裕子がいう。
 裕子は自分で言いながら、
――この発想は、元々自分の方がいつもしていた発想なのに――
 と感じた。
 相手がいくら綾子だとしても、自分のキャラクターを奪われた気分になると、癪に障った。
 ここから先、綾子の発想が暴走し始めるのだが、裕子にはそこまでまだ想像もしていなかった。
――綾子って、時々いきなり奇抜な発想になって、手がつけられなくなるわ――
 と感じていたが、これも虫の知らせのようなものだったに違いない。
 裕子はそんな綾子を頼もしく思いことがあった。普段から自分が裕子の話の「つっこみ担当」のように思っていたが、それも相手を頼もしく思っていないとできないことだ。
 だが、本当は「つっこみ担当」よりも「ボケ担当」の方が、相手を信用していないとできないことだ。そう思うと、頼もしく思うことと、相手を信用することとでは正反対の感情なのかも知れないとも感じられた。
「そういえば、裕子は生まれ変わったら何になりたいって考えたことはなかった?」
 綾子からすれば、「まとも」な質問だった。
――こんな質問、綾子らしくない――
 と思ったが、改めて言われると、考えてしまった裕子だった。
「そうね、考えたことはなかったわ。たぶん、人間に生まれ変わるって思っていたからなのかも知れないわね」
 と裕子が言うと、
「それは、今私が唐突に質問したから、そう答えたんじゃない? ひょっとすると、裕子は普段は生まれ変わるという発想すらないんじゃないの?」
 と言われて、裕子はハッとした。
――誘導尋問に引っかかってしまったのかしら?
 と考えたが、これこそいわゆる、
――バーナム効果――
 というものなのかも知れない。
 バーナム効果というのは、誰もが当て嵌まるような質問をして、あたかもそれが自分だけのことのように思うことで、相手の会話の術中に嵌ってしまうことを言うのだが、これは一種のマインドコントロールのようなものとして例に出されることが多い。
――まさかここで綾子にバーナム効果を仕掛けられるとは――
 と裕子は考えたが、実際には裕子の考えすぎだった。
 綾子は裕子を誘導するという発想までは持っていたが、バーナム効果を引き出すことになるなど思ってもいなかった。もっとも綾子の中には、裕子に対してバーナム効果など通用しないという思いがあったようだ。無意識ではあるが、結果的にはバーナム効果というのは、裕子の考えすぎだった。
 今までの二人の関係性は、こんなところにも現れている。
 綾子は裕子を何らかの発想の元に、自分の発想へ誘導しようとしているところはあったようだ。しかし、だからと言って、マインドコントロールのようなものがあるわけではなく、せめて考えていることとしては、
――裕子は、私が想像していることの反論を述べてくれたり、付加価値をつけてくれることで、私の発想がどんどん膨らんでくれると嬉しい――
 と考えていた。
 天国と地獄の話、そして、そこから派生するあの世の話、そこに関連しての生まれ変わりや輪廻転生の話、さらに結びついてくる感情としての、孤独や果てしなさという思い。その中で綾子と裕子は自分の発想を膨らませていくのだった。
「そういう綾子は、何かに生まれ変わるとは思っていないの?」
 ささやかな抵抗を裕子も試みた。
 なるべく気にしていないように質問したが、すべては綾子の手のひらの上で踊らされているという思いが消えるわけではなかった。
「私は生まれ変わると思っている。ただ、それは人間に限らない。人間が人間にしか生まれ変わらないという発想は、私の中にはないのよ」
「どうして?」