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「あの世」と「寿命」考

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「その理由はいろいろあるし、その理由は一つの結論に結びついていると思うんだけど、今の綾子ちゃんに説明しても難しいと思うの。だからね、こう考えればいいのよ。『天国と地獄、両方あるのはどうしてなのか』ってね」
 と祖母が言った。
 なんとなくの禅問答のようで、すぐには理解できなかったが、要するに、
「皆が天国に行けるのなら、地獄という存在があるはずがない」
 ということが言いたかったのだろうと感じた。
 確かにその通りだった。
 綾子は、大人になってから、その時の祖母の言葉を思い出すことがあった。そのたびに少しずついろいろな疑問が湧いてくる。そしてその疑問が解決することもなく新しい疑問が湧いてくる。次第に疑問が増えていってしまったので、その端から忘れていくのだが、何かのきっかけで一つの疑問を思い出すと、いろいろと考えてしまう。その考えの中で次第に増えていった疑問がよみがえってくる。考えていると時間の感覚はマヒしていき、思いついたことが結びつくことはなかなかなかったので、もちろん結論が出ることもなかった。
 その時のことを誰かに話そうという気にはなからなかった。なぜなら、その時に考えたこともいったん我に返ってしまうと、その時に何を考えていたのか、忘れてしまっているからだった。
――まるで夢の世界のようだわ――
 夢の中で見たことも、夢から覚めるにしたがって忘れていくものではないか。そう思うと、綾子は誰かに話す以前の問題のような気がしていた。
 だが、これが夢と同じようなものだと考えれば、前から夢についていろいろ話をしたことがある裕子に話したことがあった。
「確かにおばあちゃんの言うように、すべての人が天国に行けるのなら、地獄の存在意義ってないわよね。それにそもそも宗教なんていうものの存在意義もない。そう考えると、神社やお寺の存在意義すらないように思えるのは、奇抜な発想すぎるかしら?」
 と裕子は綾子の話を聞いて、そう答えた。
「そうなのよ。大人になって考えるといろいろな考えが思い浮かんでくるのよ」
 と綾子がいうと、
「そういえば、綾子はこんな話をするのは私が初めてだって言ったけど、本当にそうなの?」
 と裕子が妙な勘繰りをしてきた。
「ええ、もちろんよ。どうしてそんな風に思ったの?」
「いえね。綾子は男性の友達が多いでしょう? しかもその相手というのが、気が弱い人で、そして潔癖症の人が多い。綾子はそんな男性を今では結構毛嫌いしているようだけど、綾子はそんな彼らと共通点があると思うのよ」
 という裕子の言葉を聞いて、頭にきた綾子は言葉を遮った。
「そんなことはないわ。共通点なんてあるわけないわ」
 と言って捨てた。
「そんなに怒らないで聞いてよ」
 裕子にそう諌められると綾子はすぐに落ち着いた。
「ごめんなさい」
「今まで綾子のまわりにいた男性は、綾子の考えていることが結構分かっていたような気がするの。私が見ていると、結構相性が合っていた人もいたような気がしたのよ。綾子の方が一方的に毛嫌いしていたようなので、私は何も言えなかったけど、そんなに生理的に受け付けなかったの?」
「ええ」
「それなら仕方がないけど、世の中って意外とそんなものなのかも知れないわね。自分と同じ性格の人を生理的に受け付けない人っていうのも結構いると思うしね」
「それって、磁石の同極が反発しあうような感じ?」
「ええ、その通りね。綾子を見ていると特にそう思うわ。まるで鏡に写っている自分を嫌いだと思っているかのような感覚ね」
 確かに綾子は鏡に写った自分の姿が嫌いだった。
「裕子はどうなの? あなただって女性ばかりなんでしょう?」
「ええ、そうね。でも、私の女性との相性と、あなたの近づいてくる男性との相性は、同じくらいに大切なものだって私は思っているんだけどね」
「彼らにだって私は自分の考えていることを話したことなんかないわ。毛嫌いしている相手なんだから当然よね」
「でも、彼らには綾子の考えていることって結構分かっていたような気がするの。綾子にはそのつもりはなくとも、自分の考えを結構表に出しているからね。そんな彼らにだったら、綾子の考えていることに対して何らかの意見をしてくれると思うわよ」
「そうなのかしら? でも、皆それぞれで意見が違うって思うんだけど?」
「私もそう思う」
「えっ? それじゃあ意味がないじゃない?」
「そんなことはないわ。逆に、十人が十人、同じことを答えたとして、それで綾子は納得する?」
 と裕子に言われて、ドキッとした。
「確かに皆判で押したような同じ答えだったら、却って信憑性に欠けるような気がするわ」
「そうでしょう? それが綾子なのよ。多数意見をそのまま信用しないのが綾子でしょう? 逆になんとなくだったり、中途半端な回答の方が、却って信憑性を感じるんじゃないかって思うのよ」
 綾子は裕子の言葉に喉が詰まってしまった。
――裕子の言うことは、いちいち合っていて、憎らしいくらいだわ――
 と綾子は感じていた。
「ねえ、裕子はどうしてそんなに私のことが分かるの?」
 と綾子が聞くと、
「どうしてなんでしょうね? 私は綾子を見る時、まるで自分を見るような気分になって見ているからかも知れないわね」
「それって、鏡の中の自分を見るような感じ?」
「それとは違うわ。鏡の中の自分は私にとって怖い存在なのよ。だから私は必要以上に鏡を見ないようにしているの。そういえば、ここ最近は、本当に鏡を見ていないわ」
 女性が鏡を見ないというのはよほどのことである。しかし、裕子の話を聞いていると鏡を見ないことに納得できる。世間一般の考え方として、女の子が鏡を見ないのはおかしいという方が、間違っているのではないかと感じるようになっていた。
「裕子にとって私はどんな風に写っているのかしらね?」
「鏡にも種類があるんじゃないかって思うのよ。本当に自分を映すものと、自分以外の自分を映すものとね」
「二種類の鏡があると?」
「二種類かどうか分からないけど、少なくとも目に見えない鏡のようなものがあると私は思っているわ」
「それって、結界という意味かしら?」
「そう言ってもいいかも知れないわね。見えているものに信憑性を感じられない時、目の前に結界を感じる。それが、もう一つの鏡だと思うのはおかしな考えかしら?」
 という裕子に、
「裕子の話を聞いていると、本当に思えてくるから不思議だわ」
 と綾子は答えた。
「この間見た夢なんだけど」
 と裕子が言い出した。
「ええ。覚えている夢なの?」
「うん、夢というとほとんど覚えていないというのが私の中での感覚なんだけど、その夢だけは印象として残っているの。しかもその夢で、私は誰かと話をしていたという感覚なんだけど、それが誰だったのかは分からない。でも、初めて出会った人だということは分かったんだけど、いずれまたどこかで会える気がしたのよね」
「それは夢の中でということ?」
「それは分からない。ただ、出会った時、私がその人のことを分かるのかどうか、自信がないの」
「じゃあ、どうして出会えると思ったの?」