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「あの世」と「寿命」考

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「自分中心で何が悪いのかって思うのよ。自己満足を悪いことのようにいう人もいるけど、自分が理解できないことを他人ができるわけはないっていうのよね」
 綾子は興奮気味にそう言った。
――しまった――
 という感覚はあったが、綾子は突っ走ることにした。下手にここでブレーキを掛けてしまうと、お互いにぎこちなくなってしまうように感じたからだ。
「今綾子は、自分が理解できるって言ったでしょう? それは自分が納得できないことをと言い換えた方が、さらに説得力があると思うわ」
 と裕子が言ったが、
「確かにその通りね。理解することができても、自分が納得するかどうかは、二の次ですもんね」
「そうじゃないのよ。納得できるから理解できるのよ。それを履き違えている人が多いと思うんだけど、納得することが大切だから、理解するというプロセスを大切にしていると思っているんだろうけど、本当は納得できなければ理解できないという単純な理屈を誤解していることから自己満足に対しても、悪いことのように考えられてしまうんじゃないかって感じるのよ」
 裕子の話に綾子はドキッとした。
 裕子の話は時々飛躍する。裕子本人は意識していないのだが、綾子は飛躍だと思っている。
「目からウロコが落ちたみたい」
 と何度裕子に対して言ったことだろう。
 この時もまさにそんな気分だった。
「自己満足って、私は嫌いじゃない。まずはそこからって発想になるからね」
 と綾子がいうと、
「でも、それって結局まわりを意識しているということの裏返しにもなるんじゃないかしら?」
 と裕子に言われて、
「確かにその通りなんだけど、自分ではまわりを意識しているわけではなく、もう一人の自分を意識していると思っているの。鏡に映る自分であったり、夢の中で出てくるであろうもう一人の自分のことね」
「綾子は、そのもう一人の自分の存在を本当に信じているの?」
 と言われて、ドキッとした。
「信じているというよりも、もう一人の自分がいることで、自分の中で納得できることが多いような気がするの」
 と綾子がいうと、
「それは直接的な考えというよりも、間接的な感がだって思えそうよね」
「確かにその通り。でも、見たことのない何かの存在を信じようとすると、間接的にでも自分を納得させられないとできないことでしょう?」
「そこに無理があるとは思わないの?」
 裕子にそう言われて、
「何が言いたいの?」
 綾子は、裕子を見つめた。
「どうも綾子はもう一人の自分という存在を意識しすぎて、本来の自分を見失いかけているような気がして仕方がないの。私ももう一人の自分の存在を否定したりはしないと思うんだけど、必要以上に意識することはないと思うの。綾子がそこまで意識するということは、無意識なのかも知れないけど、心のどこかでそのもう一人の自分を怖がっているんじゃないかって思うのよ」
 まさにその通りだった。
 今まで見た覚えている夢の中で、一番怖かったと感じるのは、
――もう一人の自分がいたような気がする――
 というものだった。
 それまで怖いとは思っていなかったはずの夢の中で、最後の瞬間に出てきたもう一人の自分のおかげで、一気に恐怖へと夢が変貌してしまった。だから感覚的にだが、
――もう一人の自分が出てきた夢が一番怖い夢として意識している――
 と感じたのだ。
――待って? もう一人の自分の存在を信じていても、それが本当に自分なのかという疑問は残るわ――
 と綾子は感じた。
 ひょっとすると、男性なのかも知れないというおかしな、いや捻じれた感覚に気持ち悪ささえ伴っているように思えた。
 綾子は決して自分がレズビアンというわけではないが、時々女性の指を意識してしまうことがある。気が付けば話をしていて相手の指先が気になってしまうのだが、
――それは相手が裕子だったからなのかも知れない――
 と思うと、裕子がカミングアウトして自分がレズビアンであると告白してくれたからだけではなかったような気がする。
 綾子は今までに男性と付き合ったこともあったが、最終的にはいつも綾子が愛想を尽かせていた。相手の性格はいつも共通していて、綾子自身、トラウマになってしまうほどの性癖の持ち主だったのだ。
 綾子は自分から付き合ってほしいと思うほどの男性に、今までは出会ったことがない。今まで付き合った、いや、相手はそう思っているかも知れないが、綾子自身付き合ったと認められないものを含めても、そのすべては相手から付き合ってほしいと願われるものばかりだった。
 その性癖とは、いくつかあるのだが、一つは気の弱いタイプの男性だった。
 ただ気が弱いだけではなく、いかにも自分に自信がなさそうに、いつも背筋を曲げていて、こちらを見る目も下から見上げるような目線だった。自分の何に自信がないのか分からないところが、一緒にいて次第にイライラさせられるものだった。
 自信のなさは態度だけではなく、言動にもあった。自分から話題を振ることはなく、すべて相手任せである。自分なりに意見を持っているようにも思えたが、決してそれを口にするわけではない。
「ねえ、ちゃんと自分で何を考えているか分かってるの?」
 と言っても、相手は恐縮するだけで何も言わない。
 綾子も相手が男性であれば、よほどのことがなければ、相手に苦言を呈することはない。男性に対して敬意を表しているというのもあるし、相手に言いやすい環境を作ってあげるのが女性としての務めだという、少し古臭い考えを持っていたからだ。
 それでも自分の考えを言わない相手に愛想を尽かせるまでには一気に行かない自分の気の長さを不思議に感じるくらいだった。
――私に付き合ってほしいというだけの度胸があるはずなのに、どうして付き合い始めるとこうなのかしら?
 と思ったが、きっとまわりから見ている綾子と、実際に付き合い始めると違って見えるからなのではないだろうか。
 綾子はギリギリまでは我慢できるが、いったん我慢ができなくなると、自分を抑えることができなくなるのを分かっていた。
――私も女なんだわ――
 と感じるのはこの時で、こんな性格が女性ならではだということを分かっているつもりだった。
 だが、綾子と付き合っている男性にもう一つの共通点があった。それは相手が潔癖症であるということである。いつもマイ箸だったり、マイストローだったりを持ち歩いている。人が自分の身体に触ったというだけで、いちいちウエットタオルと取り出して、必死になって拭く姿を見ていると、何とも言えない気分にさせられる。
 一緒にいることが恥ずかしくなるくらいで、最初は黙っていたが、どうしても一言苦言を呈しなければ我慢できなくなる。
「もういい加減にしてよ」
 その言葉には明らかな棘があり、面倒くさそうな言い方は、他の人であれば、怒りをあらわにするのではないかと思えるのに、付き合っている男は恐縮してしまい、何も言えなくなってしまう。自分で殻を作ってしまって、二人の間に瞬間壁ができてしまうと、綾子は自分が一人取り残された気分にさせられる。
――何よ。これじゃあ、まるで自分が悪者になったみたいじゃないの――
 と感じる。