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時間差の文明

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 天変地異で、滅びたと書かれていたが、海に面したところではないので、少し疑問もあったが、少し興味を持ったのだ。
「カリオス文明」
 再度、口にしたが、何か遠い記憶の中に燻っているものに思えてならなかった。
――きっと夢で見たのかも知れないわ――
 と思ったが、名前まで同じものを想像したというのは、
――ただの偶然で済ませていいものだろうか?
 と、感じたほどだった。
 ここ十年くらいで発掘が進んでいるらしいと書かれていたが、考古学界では、結構斬新な研究として注目を浴びているのかも知れない。雑誌には数行しか書かれていないので、そこまでしか発表できないほどしか分かっていないのか、それとも、他の研究者に分かってしまっては困るので、ある程度まで緘口令が敷かれているのかのどちらかであろう。
 千鶴は、こういうことには疑り深い。当然後者だと思っているが、どうせなら、これ以上、世間に知られたくないという気持ちになってきたのも事実だった。
――どうして、そんなことまで感じるのかしら?
 と思ったが、今は夢の中にあることを引っ張り出すのが少し怖い気がした
――だったら、いつがいいの?
 と自問自答をしてみたが、分かるはずもない。自分への回答もできないほどの困惑状態になるだけだった。
 千鶴は、「カリオス文明」の話は抜きにして、他の文明の話を読んでみた。知っているはずの文明の話が、まるで初めて読んだ時のような新鮮な気持ちで読むことができたのは、自分でもビックリしていた。
 その中で、ギリシャやローマの文明には、必ず神の話が出てくる。
 神の力によって滅ぼされた文明もある。しかも、それは人間が悪いことをしたというよりも、神の方での一方的な都合や、あるいは嫉妬のようなものが原因だったりする。
――人間の汚い部分のようだわ――
 力があるだけに始末が悪い。
 ほんの少しでも神を怒らせてしまったら、神の力で、どんなに素晴らしい文明であっても、地球上から滅んでしまう。それを悲劇として描くのも、人間である。
――ひょっとして、神というのは、人間が創造した人間の汚い部分なのかも知れない――
 とも感じた。
 人間を作ったのは神だというが、創造神であれば、できあがったものに、枝葉が付いても、それを潰すのは正当化されるのだろうか? ということである。
 そう思うと、人間のやっていることと変わりはない。人間への痛烈な批判が、神を創造するということなのかも知れないように、千鶴は考えていた。
 特に、その日、文明の話を読んでいるうちに、その考えが以前から頭の中にあって、燻っていたことに気が付き、改めて考えさせられたと感じたのだった。
 千鶴は、夢で思い出したこととして、自分が古代文明の姫として、古代遺跡が栄えていた頃の世界で生きている夢を見たことだった。
 姫として大切にされてはいるが、そこに自由はなく、束縛さえ受けていたが、目の前に広がっている文明を作っているのは、多くの人夫であった。
 彼らに自由はなく、束縛ばかりか、鞭で身体を打たれて、倒れても働かされる運命だけを背負っている。
 それを当たり前の光景として目の前の光景をまるでテレビのように見ているのだ。
 もちろん、テレビなどある時代ではないのに、夢の本人が現代人なのだから、文明が頭の中で交錯しているのだ。
 不安を感じながら、目の前の光景を見ている。
――一歩間違って生まれていれば、自分はあの中にいるんだ――
 という意識があった。だが、それでも平然と当たり前のように見ている自分がいる。その心境が恐ろしく、不安の一端を担っていた。
――これも神の仕業なのかしら?
 姫となった千鶴は、神の存在を意識していた。
 自分の運命、そして目の前の人すべての運命は、神の思いのままであり、指を一本動かすだけで、この世から消されてしまうこともあるのではないかと思うのだった。考えてみれば文明として後世に残っていることは、決して後世に残すためだけのものではない。本当の理由は、神に対しての怯えから、大きな建造物を作って、祀るのがその一番の理由だろう。宇宙人説も否定できないが、千鶴の思いは、すべて神の存在なくしてはありえない古代文明への発想だったのだ。
「お客さんは、文明とかに興味があるんですか?」
 話しかけてきたのは、さっきコーヒーを持ってきてくれた女の子だった。
「ええ、どちらかというとある方だと思いますわ」
 と、店を一通り見渡しながら、戸惑いながら答えた。
 店の客は千鶴一人だった。店に入った時も一人で、誰も入ってきた様子はなかったのだから、一人に間違いはないはずなのに、どうして再度店の中を確認したのか、彼女には不思議なようだった。
 千鶴の行動は癖だった。
 誰もいないと分かっていても、本に集中している時には、まわりが見えていないということと、急に話しかけられて、返事を迫られた時、まわりに視線を感じてしまうという癖があったのだ。
――誰もいないはずなのに――
 という不安が怯えに変わった「時、千鶴は確認しないでは居れなくなるのだった。
 まわりを見て、誰もいない確認が取れると、やっと安心して、答えることができるのだか、返答も曖昧にしか答えられない。それだけ質問が突飛であったのと、質問をしたタイミングが唐突であったことが原因であった。
「私も以前、よくサイエンスの本が好きで読んでいましたよ」
「そうなんですね。私は、大学の時に立ち寄った喫茶店で、芸能雑誌の付録についていたのを読んで、興味を持ったんですけどね」
「へぇ、私も最初に読んだのは喫茶店だったですね」
 彼女は、自分の中で千鶴と意気投合したような気分になっているようだ。
 千鶴の方は、戸惑いながらも、いつの間にか彼女のペースに引き込まれていた。本当は、彼女が、友達の妹であることを確かめたいという気持ちがあるのだが、唐突さと突飛さに正直圧倒されてしまって、確かめるまでには、到底及ばない気がしていたのだ。
「私は、時間に興味を持っているんですよ」
 いきなり時間の話をし始めた彼女だが、唐突さは若さゆえなのか、それとも、いつも何かを考えていて、それを人に話さないと我慢できない性格なのかも知れない。
 後者の方が千鶴には分かりやすく感じる。実は千鶴自身がそうだからである。そして、千鶴が話す相手というのは決まっている。そう、言わずと知れた他ならぬ浩平であった。
 浩平は、千鶴の話を嫌な顔せずに聞いてくれる。それでも最近は、少しウンザリしているように感じられるのが気になっていたが、考えてみれば、それも当然だ。浩平も相手が千鶴でなければ、いつかそんな役は御免こうむることになるのは分かっている。
 千鶴にとって、浩平はただの幼馴染ではない、自分のことを一番理解してくれて、痒いところに手が届く相手でもあった。そして、千鶴も浩平に対して、癒しという形で返していることを、漠然としてだが、分かっていた。だからこそ、千鶴も浩平もお互いに遠慮はしない。特に子供時代はそうだった。
作品名:時間差の文明 作家名:森本晃次