第八章 交響曲の旋律と
やがて足音が聞こえなくなり、ホンシュアは目をつぶる。ひとり、ベッドに残された彼女は、荒く熱い呼吸を繰り返し、自分の体を抱きしめた。
冷却剤を飲んでも、体が冷える気配はなかった。それは、予期していたことだった。
それでもホンシュアは、慰めにも気休めにもならない、ちっぽけな『奇跡』を起こしたかった。たとえ最期の瞬間だけだとしても、自分自身として終えられるほうが幸せだと考えたから――。
それは、独りよがりの偽善の押しつけかもしれない。残された家族にとっては、残酷なだけかもしれない。
けれど、犠牲になった相手への、せめてもの償いとして、彼女はできる限りの礼を尽くしたかった。
「ライシェン……。『私』のしようとしていることは……間違っていると、思うわ」
それでも……。
「それが、どんなに罪だとしても……、私は、貫こうと……するのね、きっと……」
――私の――ライシェン……。
作品名:第八章 交響曲の旋律と 作家名:NaN