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交差点の中の袋小路

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 ということはある。どちらかというと、近藤もそんなタイプの男だが、彼に限って、陰湿なストーカー行為をするようなことはないと信じている。
「彼に限って……」
 この言葉も、考えてみれば、一番信憑性のない言葉でもあった。
 明美をストーキングしていた先生のことを報道に来た記者に対して語った人は、皆口々に、
「そんな、先生に限ってストーカー行為だなんて」
 と言っていたものだ。
 明美の思いが以心伝心、晴彦にも乗り移ったのか、ストーカー先生への怒りがこみ上げてくるのだった。
 先生に対する怒りと、近藤に対してのイメージは、どうしても重なってこない。やはり、近藤という男にストーカー行為はありえないと思った。
 現実社会で男性不信に陥っている明美は、愛里を自分に引き寄せるのに必死だった。夢の世界で、愛里が晴彦に惹かれているのを黙って見ていたが、それも次第にたまらなくなって、愛里の後ろに見え隠れするようになったのだろう。
 愛里にとっての明美と同様。近藤も晴彦の後ろに見え隠れしている。近藤が見つめているのは明美ではないだろうか。
 本当は明美のことが好きで、何とかしたいと思いながら、現実社会での明美の頑なな気持ちをこじ開けることはできない。せめて夢で明美を見守っていきたいという気持ちが、晴彦の後ろで見え隠れしているようなイメージを司っているのだろう。
 明美は、夢の世界では、決して男性不信ではない。逆に男性不信な自分をなんとかしたいと思っているほどで、他の人と夢の共有をしているのも、その気持ちの表れからなのかも知れない。
「夢の共有には、必ず何かしらの理由が存在しているのだ」
 と、思うと、晴彦は自分の夢の共有に対しての理由が何であるのかを、考えるようになった。
「夢を共有したい、しなければなららい」
 そんな理由が存在しているのだ。
 それは、現実社会ですでに存在しているもので、晴彦には分かっていないものではないだろうか。
 夢を共有しながら、毎日を繰り返している夢を見ていたり、夢に対して、いろいろなことが起こっている。
 毎日を繰り返している時は、夢に対して恐怖心はなかった。夢を繰り返すことで、死の恐怖すら乗り越えられるような気がしたくらいだ。もちろん、現実社会で死の恐怖を乗り越えられるわけはないので。虚空の幻影でしかないのだろうが、それでも、夢はいろいろなことを教えてくれた。
 晴彦は夢で出会った愛里を愛しているのを自分で感じていた。だが、現実社会で出会うことは決してないのではないかと思っている。
「夢など見なければよかった」
 夢の共有を後悔しているわけではないが、夢を共有していると思っていること自体が、夢の中だと思うようになっていた。
 毎日を繰り返している夢の中で、共有している夢がある。
 そう思うと、夢が堂々巡りを繰り返す袋小路という世界に入り込んでしまっていたことに気が付いた。
 袋小路は、現実社会にも存在し、そして夢の中にも存在する。そして、現実社会の袋小路への入り口が。交差点になるのだ。
「夢など見なければよかった」
 無意識に、その言葉を繰り返す。繰り返している世界が一体どこなのか、晴彦は考えていた。
 現実世界では交差点。夢の世界では、毎日を繰り返している世界。具体的に思い出すのは、愛里がいた屋敷と、おやじの屋台である。それぞれに分岐点があり、死ぬことで次の世界へ向かった男もいた。晴彦も自ら死を選ぶことはしなかったが、次の世界を垣間見た気がしていた。
 夢を司っている世界がさらにあり、現実社会からの受け渡しができるようになっていて、その存在を知られることがないから、夢と現実の秩序が保たれている。その秩序を晴彦は知ってしまった。
 それにより、晴彦は袋小路という世界から抜けられなくなってしまった。毎日を繰り返しているという意識がないまま、ずっと同じところから抜けられない。
 それが夢の世界なのか。現実の世界なのか誰にも分からない。
「夢の共有」
 そのカギを解いてくれるのは、果たして明美なのか愛里なのか、まずは、夢の世界が現実社会の「交差点」の中の「袋小路」であることを、理解しなければいけないのだろう……。

                  ( 完  )



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作品名:交差点の中の袋小路 作家名:森本晃次