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表裏めぐり

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「それは羞恥心を持ったまま、彼の小説を読んでいるからなのかも知れないわね。私は自分に置き換えて小説を読むようにしているの。だから何となくだけど、ストー炉¥リー展開が分かってくるのよ」
 という晴美に対して、
「どうしてなの? 小説の中に入り込んでしまうと、抜けられなくなりそうで、どうしてもあなたのようには思えないわ」
 とつかさが言った。
「そんなことはないわ。それはあなたが、小説の中に入り込んで主観的に見ているからなんじゃないかしら? 私はあくまでも客観的にしか見ていないのよ。まるで一人のエキストラになったつもりなんだけど、目線は箱庭の上から全体を眺めているかのような感じなのよね」
「入り込んでいるのに、どうして目だけが箱庭の外から客観的に見ることができるの? 私にはとてもそんな器用なことはできないわ」
 とつかさがいうと、
「私も最初はそうだった。だから、本を読むことができなかったのよ。マンガを見たり、テレビでアニメやドラマを見たりしている時は、いつの間にか自分が主人公になっているような感じになって見ていることが多かったわ。そのうちに感覚がマヒしてくるのを感じながらね」
「よく分からないんだけど?」
「私はドラマやアニメを録画しておいて見ることが多いの。気に入った作品だったら、消去せずに何度も見返すことも多くてね。マンガも何度も読み直したりしているわ」
「セリフだって覚えるんじゃない?」
「ええ、もちろん、覚えているわ。私は結構忘れっぽいので、同じ作品を気に入ったら何度も見るという癖のようなものがついているの。一種の趣味のようなものかも知れないわね。同じものを何度も見ても飽きないし、私にとっては楽しい時間でもあるのよ」
「そういうことを繰り返していると、作品に入り込んでいる時、箱庭の外から客観的に見ることができるようになれるの?」
「私はそうだったんじゃないかって思ってる。役者さんだって、自分で演じるんだから、何度も同じものを見て、練習しているわよね」
「ええ、そうでしょうけど、あなたのような感覚にはきっとならないと思うわ」
「もちろん、これは私だけの個性なんだって思う」
 という晴美のセリフに、
「個性……」
 と、小声で反芻したつかさだった。
――これが晴美の感性なのね――
 とつかさは感じた。
「春日博人の作品を読んでいると、ある一定の作風を感じることができるようになったの」
 と晴美が言った。
「作家さんの作品には、大なり小なり、その人の個性があって、特徴が見え隠れしているものだって思うわ。表に出ているものとして、同じジャンルの作家と、自分の作風がかぶらないようにしようとは思っているんじゃないかしら? 中には二番煎じを狙っているような人もいるようだけど」
 というつかさの話に、
「そうね。確かに作家というのは、これだけたくさんいるわけだから、誰ともまったくかぶっていないということを感じさせる作家さんというのはなかなかいないかも知れないわね。でも、私はそういう意味でも春日博人という作家の特徴として、他の誰ともかぶっていないという性格を持ち合わせているように思うのよね」
 と晴美が言った。
「それこそ、晴美の求めているものなんじゃないかしら? 人と同じでは嫌だという性格を露骨に表に出しているあなたらしいように思うのよ」
「そうかも知れないわね。一年くらい前の私だったら分からなかったかも知れないわね」
「どうして?」
「それは私が小説を読むきっかけになった話を、つかさと以前したことがあったでしょう? あの時が私にとっての分岐点だったような気がするの」
「確かにあの時は、晴美はまだ小説を読むということに慣れていない時期だったわね。小説の世界というものを垣間見たことのない、まっさらな時期だったということよね」
「ええ、本当は最初のその時が、一番新鮮で初々しかったんでしょうけど、小説というのが読めば読むほど奥が深いということを教えてくれたのも、春日博人なのよ」
「でも、あなたは他の人の小説は読まないんでしょう?」
「ええ、本当は他の人の作品も読んでみて、比較してみたりするのがいいんでしょうけど、私にはそれが無駄な時間に思えてきたのよ。せっかく自分にピッタリ合った作家さんが見つかったのに、他の人の作品を見て、せっかくの目が曇ってしまうのは嫌だって思ったの」
「でも、それって」
 というつかさに対して、
「ええ、それは他の人の作品を知らないからだって言われればそれまでなんだけど、たとえば自分が作家を目指しているとして、いろいろな人の作品を読み漁って、自分の作風を模索していくというのもやり方だと思うんだけど、もし自分の作風に合うと思う人の作品が見つかったら、他の人の作品を読まなくなると思うのよ。そしてさらに自分の作風がある程度見えてくると、今度はその人の作品も読まなくなると思うのね。だから、私は春日博人という人の作品というよりも、彼という人物に興味があると言った方がいいのかも知れないわ」
 という晴美の話を聞いて、
「春日博人という作家は、プライベートでも作家としてもあまり露出のない人なので、ファンもそんなにいないのよね。でも、彼のファンというのは根強いものがあって、隠れファンの中には過激な人もいたりするって話を聞いたことがあるわ」
「ええ、私も聞いたことがある。私自身、彼の作品を読んでいるうちに、自分も同じような過激なファンの一人なんじゃないかって思うことがあるの。彼の作品を読んでいると、普段の自分なのか、バーチャルな自分なのか分からなくなることがあるのよ」
「バーチャルな自分なんて存在するの?」
「ええ、小説を読んでいる時、私は作品に入り込んでいる自分は小説を読んでいる自分だって思うんだけど、箱庭から見ている自分はバーチャルな自分だって思っているの。だって、同じ時間に同じ人は存在できないでしょう?」
「ええ、その通りだわ。そういう意味で、彼の小説の中に、私はパラレルワールドを感じるという感じになっているのかも知れないわね」
 少し強引だったら、ここにパラレルワールドが入り込んできた。
 一度自分の中で勝手に結論じみたことを解決させておいて、つかさが話を変えてきた。
「彼の作品は初期のものと、途中から急変したような気がするんだけど、これは私の勘違いだったのかしら?」
「そんなことはないわ。それは私も感じているのよ。でも、作家である春日博人さんが変わったわけではないと思うの。それも小説を書く目線が変わったわけでもないと思うの。彼のような作家は、見ている目線が変わってしまうと、きっと小説を書くことができなくなるんじゃないかって思うの。彼の中には架空の話を書くというポリシーがあるんだけど、そこにあるのは真実だと思うのよね。それは事実ではない真実という意味よ。まるで目の前の光景を忠実に描いているつもりでも、省略できるところは大胆に省略して描いている作家のような感じなのかしら? 私は絵も描いているので、そのあたりは、小説とは違っているんじゃないかって思うようになったの」
 とつかさは考えているようだった。

               限定と限界

「ところでね」
作品名:表裏めぐり 作家名:森本晃次