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表裏めぐり

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「納得がいかないかも知れないけど、それが現実なのかも知れないわね。あなたはそのことを知っておく必要があると思うの。人の考えていることは本当に人それぞれなのよ。だから皆自分と考えが同じか、考えが合う人を探そうとする。それが本能のようなものであり、晴美には納得がいかないと思っているところなんでしょうね」
 とつかさは平然と言った。
「どうしてそんなによく分かるの?」
 と聞くと、
「分かるというか、私は他の人と同じようなところが多くあり、晴美とは違っていると思う。でも、私は考え方が合う合わないというよりも、一緒に話をしていて、話が繋がる人が一番だって思っているの。話が合う人というのは、他にも結構いるかも知れない。でも話が合うだけだったら、話に限界があって、膨らみというか伸びしろがないような気がするのよね」
 晴美もその話を聞いてなんとなく分かった気がした。
「本の話をするという話題性が一つ見つかっただけでも、私は話が合うと思っていたわ」
「晴美はそれでいいのよ。晴美が他の人に合わせる必要はない。あなたが人に合わせようとすると、相手が気を遣って、却って敬遠してしまうことになりかねないからね」
 もしこれが晴美以外の相手に話をしているのであれば、きっと相手は不愉快になって、話を遮るか、下手をすると話を打ち切ろうとするだろう。しかし晴美はそんなことはしない。相手の意見を最後まで聞こうという姿勢が現れていた。他の人にはない晴美の一番のいいところではないだろうか。
 晴美は気分が悪いわけではないが、ズバズバと話しているつかさの話を聞いているうちに自分が話に引き込まれるのを意識していた。その意識があるから、自分も反対意見を言いやすいし、何よりも対等に話をしていると思うのだった。
 他の人だったらこうはいかない。話に耐えられなくなって遮ったり打ち切ったりしようとするのは、聞くに堪えない内容に、すぐに自分で防御線を張ろうとしてしまうからだろう。それは誰もが持っている防衛本能というもので、晴美にも防衛本能があるが、相手がつかさだったら、防衛本能は働かない。
――どうしてつかさには、あまり反抗しようとは思わないんだろう?
 と話をしながらいつも思っていた。
 他の人が相手だったら、すぐに不愉快になって、自分から話を遮るか、勝手に中断するに違いなかったからだ。これはつかさが思っている他の人の態度よりもきついもので、他の人には到底受け入れられるものではない。
 晴美は本能で、まわりが自分に対して同じような態度を取ることが分かっていた。子供の頃に自分が得意げに何かを話そうとした時、相手がいきなり話を遮ってきて、
「晴美ちゃんと話したくない」
 と言って、晴美が茫然としているのをいいことに、何も言わずに踵を返してどこかに行ってしまった。
 ――ひょっとすると、言ってはいけないことを口にしたのかも知れないわ――
 という思いが晴美の中にあり、晴美の中で、
――余計なことをいって、相手にしかとされるくらいなら、何も言わない方がいいんだ――
 ということで、その思いが膨らんで、
――人と同じでは嫌だ――
 という元々の考えに融合する形で、人にかかわることがあまりなくなったのだ。
 その思いはトラウマになってしまったが、トラウマになった原因が何だったのか、元々の性格に融合されてしまったことで分からなくなった。だから自分が人と関わりたくないと思っていることも、すべてが生まれ持って持っていた性格のなせる業だという風に思っていた。
 そんな晴美につかさだけはいつも一緒だった。
 当のつかさも、人と関わりたくないという思いを強く持っている。
 つかさの場合は、生まれ持っての性格というよりも、環境が大きかったのかも知れない。
 母親が家を空けることが多かったので、いつも一人だった。
 つかさの母親は気丈なところがあり、決して自分の考えを曲げることのない人だった。そういう意味では性格的にはつかさよりも晴美の方に近かったのかも知れない。
 元々、母親はつかさも自分と同じような性格で、一人にしておいても、寂しいという思いはあるだろうが、何とか自分でしてくれる強さを持っていると思っていた。確かにその通りだったが、母親の目というのもあって、それをかなり過大評価していたところもあり、つかさには分からないところで、つかさの限界を超えた想像を娘に課してしまっていたようだった。
 もう少しでつかさも限界に近づくところだったが、晴美がいてくれたおかげで、限界を見ることもなく、自分の中にトラウマを抱えることもなかった。
 つかさにとって、晴美の存在はそれまでの自分の人生を一変してくれそうな可能性を秘めていた。
 一人でいる時は読書ばかりをしていた。つかさはテレビを見るということがあまり好きではなかった。テレビ番組というと、バラエティやスポーツ、報道番組のようなものが多く、子供が見れるものは少なかった。
 バラエティにしても、アニメ番組にしても、ほとんどが楽天的な話が多く、つかさには皮肉にしか思えないものだった。かといって、リアルな番組はもっと嫌だっただろう。自分と重ねて見てしまうことで、さらなる悲惨さを自分の中で想像してしまうからだった。
――想像よりも創造――
 だと思っていた。
 頭で思い浮かべたことが現実になるという感覚、これほど怖いものはなかった。
 そういう意味では、本を読むのもノンフィクションは絶対に嫌だった。架空の物語であり、ありえないことをさもあり得るかのように書いている小説。普通に暮らしている人が一歩間違っただけで入り込んでしまう世界が存在しているような小説。そこに興味を持った。いわゆる、
――オカルト小説――
 というものだった。
 つかさも、恐怖ものやホラーは嫌いだった。理由は至極簡単で、
「怖いものが嫌い」
 ということだったのだ。
 しかし、怖いものでも、理論的に説明されると、それは怖いものではなくなっていた。つかさの読む小説は、理論的な話が多い。それでいて、あくまでも架空の物語。そうでなければ、つかさは自分の限界を感じてしまうのではないかと感じていたからだった。
 このことは晴美とも話をしたことがある。
 晴美に小説を読むように促したのはつかさだったのだが、晴美は最初どんな小説を呼んでいいか分からなかった。
 文章を読むことが苦手で、それは気の短い性格が災いしていたのだろうが、結論を先延ばしにするのが苛立つからだった。
 しかし、
「それだったら、理論的な文章を読めば自分でも納得できて話について行けるようになるわよ」
 と言ったのが、晴美が小説を読むきっかけだった。
作品名:表裏めぐり 作家名:森本晃次