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表裏めぐり

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 という晴美の意見を聞いて、
「そうね。でもその話を考えていると、以前に話をしたおとぎ話の浦島太郎のお話を彷彿させる気がしてきたわ」
 晴美はそれを聞いて少し苦笑いをした。
「そうね。でも、それは私とつかさが話題にしていることに何かの共通点がある証拠なんじゃないかしら? 意識はしていないけど、どこかで発想を結びつけようという意識があって、偶然のようだけど、お互いに発想を絡めながら話を組み立てているから、どこかで接点が見つかるのかも知れないわね」
 晴美の話は以前は漠然としたものが多かったのだが、つかさと話すようになって、どこか理屈っぽくなったように晴美自身も感じていたが、こんな話をする相手はつかさだけなので、それはそれで問題がないと思った。
「ところで、晴美のいう同じ日を繰り返すという発想なんだけど、私も同じように夢を見たような気がしたの」
 というつかさの話に、
「それは漠然としてしか覚えていないということ?」
 という晴美だったが、
「いいえ、そうじゃないの。今晴美に言われるまで、そんな夢を見ていたなんてこと完全に忘れていたの。晴美の話を聞いて、夢を見ていたということを思い出したんだけど、いったん思い出してみると、今度はどんどん思い出せてきそうで、記憶の奥が自分でもどうなっているのか、不思議に感じるくらいだったわ」
「じゃあ、つかさはその時の夢を結構覚えていたということなの?」
「ええ、晴美のように目が覚めるにしたがって私も夢を忘れたんじゃないかって思うの。でも晴美のように、見たことは覚えていて、その内容を忘れているというわけではなくって、完全に見たという事実すら忘れてしまっていたのよね」
「その夢っていつ頃だったんだろう?」
 という晴美の言葉に、
「たぶん、半年くらい前だったんじゃないかって思うの?」
「えっ? そこまで思い出せるの? 私は夢を見たという意識は覚えているんだけど、それがいつだったのかということは、今となっては完全に分からなくなってしまっているのよ。それこそ、一日一日があっという間で一週間が長いと思う間隔なのか、それとも一日一日が長いと思っているけど、一週間があっという間だったと感じているのか、その期間を過ぎてしまうと、完全にどちらも果てになってしまったかのように、いつだったのかなど意識の外に置かれた気がしているの」
 と晴美は言った。
「私もそうなのよ。夢を見たことは覚えていても、それがいつだったのかなんて、分かるはずはないと思っているの。でもこの夢に関しては半年ほど前だったという自分の中だけなんだけど、ハッキリとした意識があるの。どうしてなのか説明できないけど、しいて言えば、その夢の中に晴美が出てきたからなんじゃないかって思っているの」
「私がその夢の中に出てきたというの? でも、つかさはその夢の内容を覚えていないんでしょう?」
「ええ、覚えていないけど、つかさが私の夢を見ていたという意識はあるの。しかも、そのつかさは別の世界から私の夢を見ていて、話しかけてもこちらの声なんか聞こえるはずもない。まるで抜け殻のような印象だったわ」
 とつかさが言うと、
「何だか怖いわ」
 晴美は自分が、
――つかさのいうような人間だったら――
 と考えたが、すぐに恐怖以外には何も感じられないと思った。
「その夢、私も同じ時に見ていたのかしらね?」
 というと、
「お互いに夢を共有していたということなのかしら?」
 と晴美は面白い発想を口にした。
 つかさが晴美と親友になったのは、晴美にはこういういきなりの面白い発想を口にするからだった。元々は晴美と自分が結構似たような発想をしているということを話していて気付いたことからの仲なのだが、つかさにとって、それだけでは親友とまで言える相手として認めることはできなかった。
「私は他の人と同じでは嫌なのよ」
 と晴美が言った一言もつかさの心を打ったのだが、最終的な決定打になったのは、晴美のいきなりの面白い発想だったのだ。
「夢の共有というのは面白い発想よね。確かに自分の夢は他の人とはまったく関係のないところで見るものだって思い込んでいるけど、それを信じて疑わない根拠がどこにあるのかなんて、考えたこともなかったわ」
 とつかさが言った。
「そうよね。私も夢というものに関しては、いろいろ考えるところがあるの。つかさも自分の確固たる意見を持っているということはウスウス気付いていたんだけど、こうやって面と向かって話ができる日が来るとは思ってもいなかったわ」
「そうなんだ。でも私も同じように感じていて、晴美も夢に関して独自の考えがあると思っていたの、他の人とはできないような話をできるのが私にとっての晴美だって思っていrうので、私は近い将来、夢についての話ができる日が必ず来ると思っていたの」
 つかさのこの考えは結構信憑性があった。
 だが、つかさは最初晴美の意見を聞くだけ聞いて、自分の意見を言うというシチュエーションを思い浮かべていたが、果たしてそうなるのだろうか? 自分でもよく分からなかった。
 夢の共有についても、つかさは独自の考え方を持っていた。
――こんな話題を出すと、皆に引かれてしまうわ――
 ということで、中学に入るまでは誰にも話していなかったが、自分と何となく感性が合っているように感じる晴美には何でも話ができた。
 晴美も夢の共有に関しては自分なりの考えがあるようで、話をしていて時間の感覚がマヒしてくるのを感じたくらいだった。
「夢を見ている時って、どんな時間なんだと思う?」
 と、晴美の方から質問してきた。
 しかし、その内容はあまりにも漠然としていたので、一瞬、何を答えていいのか分からなかった。
「えっ、どういうこと?」
「私はね。夢というのは、目が覚める寸前の数秒に見るものだって思っているの。まあ、これは誰かの小説の受け売りなんだけどね」
「その話は私も聞いたことがあるわ。私も同じ考えなんだけどね」
「夢を見ている時というのは、どんなに不思議なことでも信じられるでしょう? 目が覚めるにしたがって夢を忘れていくことが多いんだけど、そんな時は夢で見た内容を忘れないようにしたいと思っている瞬間があって、その時、あれは本当に夢だったんだって思うの。初めて信じられないことを見ていることに気付くからなのね」
 という晴美の話に、
「うーん、私も夢についてはいろいろ考えるところがあるけど、そこまで考えたことはなかったわ。でも今晴美の話を聞いていると、私も何だか同じような発想になっている瞬間があるような気がしてきたわ」
「きっと、誰もが思っているんだろうけど、それがあまりにも一瞬のために、意識する暇を与えてくれないのかも知れないわね」
 晴美はそう言って、少し考えていた。
 その間つかさは、晴美をじっと見ていたが、次に口を開いたのは、つかさの方だった。
「晴美は誰かと夢を共有しているという意識を持ったことあった?」
「夢の共有というと、誰かが自分の夢に出てきたり、自分が他人の夢に入り込んだりということ?」
作品名:表裏めぐり 作家名:森本晃次