小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

表裏めぐり

INDEX|18ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「私は、おとぎ話への発想に、他の人の想像とは違ったものを感じていると思っているんだけど、それはきっと春日博人という作家の小説を読んでいたことが影響しているんだって思っているの。そして、もっと深く考えようとすると。今度はもっと狭い範囲でこのお話を考えるようになると思っているの。そこに何があるのかというと、俗世間に立ち返った上での話を考えるからではないかと思うのよ」
 と晴美は言った。
――春日博人という作家の作品が、晴美と私とでは見え方はまったく違っているのかも知れない――
 と感じ、晴美が何を考えているのか、もっと知りたいと思うつかさだった。
 つかさにとっておとぎ話とは、小説を書きたくなる発想に結びつくには少し時間が掛かった。なぜか小説を書くよりも、最初に感じたのは絵を描くことだった。
 それも、単なる写生ではない。イメージしたことを絵に描くというもので、将来的には幻想的な絵を描きたいと思うのだった。
 幻想的な絵というと、イメージとしては春日博人の小説だった。彼の作品は晴美にはどう写っているのか分からないが、つかさにとっては、愛憎絵図を思わせるドロドロとしたものだった。そこには人間の欲がふんだんに散りばめられていて、恥ずかしいなどという感情を抱いてしまうと、
――最後まで読むことはできないんじゃないかしら?
 と感じるほどだった。
 そんな春日博人の作品を晴美は溺愛している。どう見ても大人の小説で、中学生が読むと赤面を隠せないほどの話だった。
「春日博人の作品は難しいんだけどね。読み込めば読み込むほど味が出るのよ。だから私は同じ話を何度も読み返しているわ」
 と晴美は言っていた。
――そういえば、晴美には同じことを繰り返すという習性のようなものがあったわ――
 ということを、つかさは感じていた。
 晴美と仲良くなり始めた頃、
「私ね。いつもテレビを録画して見るんだけど、同じ番組を何度も見る癖があるの。だから、ドラマなんかだと、セリフもほとんど覚えていたりするのよ。でも何度も繰り返して見るのはドラマだけではなく、バラエティ番組も多いのよ。バラエティ番組の時は、ただ時間をやり過ごしたい時に流しているの。静か過ぎると時間がなかなか経ってくれないからね」
 と言っていた。
 その話を最初つかさは理解できなかった。
「ただ時間をやり過ごしたいというのは、無駄に時間を浪費したいということなの?」
 と聞くと、
「そういうわけではなくってね。贅沢な時間を過ごしたい時というのが、一日の中には存在しているのよ。一日は二十四時間と決まっているでしょう? それを均等に過ごしていると、どうしても時間を持て余ることがあると思うのよね。だから、持て余した時間を私は贅沢に過ごしたいと思っているのよ」
 という晴美の話につかさは少し違和感があった。
 少し考えてからの返事となったが、
「何も一日という単位を節目にしなくても、ただの通過点として考えられないの?」
 と聞くと、
「そうなのよ。確かに一日という単位を必要以上に意識することなどないと思うんだけど、私には一日という単位がどうしても気になるの」
「どうして?」
「つかさは、一日を繰り返しているという発想を持ったことない?」
 晴美が急におかしなことを言い出したと思った。
「私にはなかったと思うわ。ただ、一度ドラマを見た時、同じ日を繰り返しているというようなホラーものの話を見たことがあったのは記憶している。でも、言われたから思い出しただけであって、自分の意識の中でそんなに重要なものではなかったのは間違いないわ」
 とつかさは言った。
「そうよね。私も同じ番組を見ていたと思うの。確かにつかさの言うとおり、普通ならただのドラマとして気にすることもないと思うんだけど、私はその夜に、同じ日を繰り返している夢を見たの。その夢は目が覚めてからも覚えていて、ただ、ラストは記憶にないのよね。それと同時に、その時一緒に、テレビで見たはずのラストシーンも私の記憶から消えていたの。これって不思議な感覚でしょう? それからというもの、私の中で一日という単位はどうしても気にしなければいけないものになったのよ」
 と、晴美が答えた。
「そうね。確かに晴美の発想もありなのかも知れないわね。私も一日、一週間、一ヶ月、一年という単位について考えることもあるからね」
 と少しつかさは晴美の話を自分の発想に持っていくかのような話し方になった。
「どういうこと?」
「晴美は同じ日を繰り返すというのもありだって発想なんでしょうけど、私はその発想を否定も肯定もしないのよ。でも、私はその話を聞いて自分の中で感じたのが、今言った単位への思いが人と同じなのかどうか、考えたことがあるわ」
「つかさって、他の人のことなんか気にしていないと思っていたけど、一応気にしているのね?」
 と、晴美は皮肉をこめたつもりで言ったが、つかさには通じていないようだった。
 つかさは構わず話を続ける。
「一がつく日付に対しての考え方なんだけど、たとえば一日一日と一週間を考えた時、一日一日があっという間に過ぎたと感じている時、一週間が結構長かったように感じるのよ。逆に一日一日が長かったと思った時に限って、一週間があっという間に過ぎたと思うことが多いの」
「多いのということは、いつもいつもそのどちからではないということなのね?」
「ええ、私が気になった時はそのどちらかなんだけど、気にならない時というのは、きっと同じ期間の感覚なんだって思うの」
「それぞれに何か共通性のようなものはあるの?」
「ハッキリとは分かっていないんだけど、小学生の頃は、毎日があっという間だった気がするんだけど、一年単位で考えると、結構長かったように思うの。でも逆に中学生になった今は、一日一日がかなり時間が経っているように思うんだけど、一週間単位で考えると、あっという間のような気がするのよね。きっと楽しいと思っている時が後者で、あまり毎日が楽しくなくて漠然と過ごしている時が前者だったんじゃないかって私は思っているの」
 というつかさの話に対して、晴美は話を聞きながら考えていた。
――何ともいえないかな?
 と思いながら、どう話を返していいのか考えていた。
「確かにつかさのいうように、私も一日という単位とそれ以上の期間の単位を比べると、結構長さに矛盾を感じることがあったような気がするわ。でも、それも今という時点から見た過去の話であって、今から考えれば、最初に感じた時と、その一年後と言っても同じくらい前のことだって感じがするから、そう思うのかも知れないわね」
「でも、それだったら、一年という期間が短く感じられるように思うんだけど?」
「それは人それぞれ、きっと改まって思い返した時、自分の中で余計な想像や妄想が生まれてきて、長かったように感じるのかも知れないわね」
「でも、私は昔と今とでは性格的なものや基本的な考え方は変わっていないと思うんだけど」
 とつかさがいうと、
「でも、成長はしているでしょう? その成長の度合いが自分の感じているスピードと違っていれば、今から見た過去のそれぞれの地点というのは、差があって不思議はないんじゃないかしら?」
作品名:表裏めぐり 作家名:森本晃次