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表裏めぐり

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 加算法は何もないところから伸ばしていくもので、短所を直していこうという発想に近いような気がしていた。逆に減算法は、完璧なものから少しずつ削っていく考え方なので、長所にたどり着くための発想に思えていた。
 つかさは長所を伸ばしたいと思っているので、最初に減算法で長所にたどり着き、そこから加算法を用いて、いかに完璧に近づけるかという発想だった。
 小説を書いていく中でこの発想が一番難しく、減算法よりも加算法が自分の考え方だと思っていたので、減算法を先に考えるというのは難しかった。
 ただ発想として、完璧なものと、ゼロのものとが、本当に存在しえるのかどうかが疑問だった。
 完璧というのは誰がどういう基準で判断するのかを考えると、
――しょせん人間の考えることなので、完璧などありえない――
 と思っている。
 では、ゼロに対しての発想はどうだろう?
――限りなくゼロに近い――
 という言葉を聞いたことがあるが、それはあくまでも限りなく近いであり、ゼロではない。
 ゼロというのは、何を掛けてもゼロでしかない。そんな概念は数学上でしかありえないのではないかと思っていた。人間の発想する範囲内でゼロはありえないという発想に行き着けば、完璧もありえないという発想にも行き着くことができる。そこに生まれてくる発想が、
――限界と限定――
 なのだろうと思った。
 限界というのは、これ以上の上は難しいというもので、限界の存というのはそのまま、
――完璧はありえない――
 といえるのではないか。
 限定というのは、存在しているものを、限って一定のものとするのであるから、ゼロの発想を打ち消しているかのように感じられた。限定とゼロの発想には無理があるが、結界という発想と一緒に考えれば無理がないように思えた。
 この発想がいずれ二人の間に交差点を作り、お互いを理解しあうことになるのだった。

               絵画と小説

 絵を描きたいと思っていたつかさだったが、その趣味も続けていた。描くといってもイラストのようなデッサンだったり、鉛筆画のようなものがほとんどだった。
 中学二年生のある日、新聞広告で見つけたイラストの懸賞に応募すると、佳作で入選した。応募総数はそれほど多くなかったので、自分が受賞したということをあまりまわりに公表することを控えていたが、学校の美術の先生がそのことを知っていて、
「この前、入選したそうだな。どうだい、美術部に入って、絵を描いてみないか?」
 と誘われたことがあった。
 つかさは、絵を描くのは趣味だったが、美術部に入ってまで続けていこうとまでは考えていなかったので、
「ごめんなさい。今はそこまでは考えていません」
 と、丁重にお断りした。
 本当は美術部に所属してもいいという気持ちは心の中の半分くらいはあったのだが、どうせ入部するなら自分からと思っていたので、お断りをしたのだった。
 勧められて入部すると、自分の中で、
――自分は、相手の望まれて入ったんだ――
 という気持ちが強くなり、いざ壁にぶつかった時、
――いつでもやめていいんだ――
 と思うに違いないと感じていた。
 そう思ってやめることをつかさは良しとしなかった。それは自分の意思によるものではなく、まわりの環境に左右されることだと思ったからだ。望まれて入部すると、どうしても驕りが生まれる。そのことを自分でどこかで戒めた気分でいないと、いつまでも自分が望まれていると思い込んでしまい、まわりの環境が変わった時に、自分の中で対応できなくなってしまうだろう。
 つかさはそこまで考えてはいなかったが、結局、突き詰めれば同じっところに着地する。そういう意味ではつかさの考え方は、先見の明のようなものを感じさせるものだった。
 入部しなかったことで、つかさが懸賞に入賞したことは、つかさと家族と、美術の先生しか知らなかった。親友である晴美にもそのことは言わなかったのだが、正直にいえばむしろ、一番知られたくなかったのは、晴美だったのだ。
 どうして知られたくなかったのかというと、恥ずかしいという思いがあったのも事実だが、それ以上に親友である晴美に必要以上な劣等感を持たれることが嫌だった。劣等感は次第に鬱陶しくなり、お互いの関係を次第に距離のあるものにしてしまいそうに感じたからだ。
 ただ、実際にはそれまでの二人の関係は近すぎた。近すぎるために見えないものもあったのだが、そのことに違和感がなかったので、二人にとってこの関係が一番だと思っていた。
 だが、
「親しき仲にも礼儀あり」
 という言葉があるように、一度ぎこちなくなると、本当に相手が他人だという意識をいまさらながらに持つことによって、お互いがボタンを掛け違うことになってしまうのだ。
 つかさは絵を描いてはいたが、小説を書きたいという思いも消えていなかった。実際に小説も書いていたし、どちらかというと、絵画よりも小説の方に興味を持つようになっていた。
 その一番の理由は、
――私は何もないところから創造していくのが好きなんだ――
 と感じていたからだ。
 絵画は確かに真っ白い図画用紙だったり、キャンバスの上に自分で自由に創作できるものだが、実際には目の前のものを忠実に描き出すことが絵画だと思っていた。それはイラストにしてのデッサンにしても同じで、イメージして描くところまではさすがに行っていなかった。
 イラストの懸賞は確かにイメージキャラクターのようなものだったので、創作には違いなかったが、自分の中で納得できる「創造」とは少し違っていた。
 もし他の人にこのあたりの話をしたとすれば、
「何が違うの?」
 と言われるのがオチに違いない。
 ただ、相手が晴美だったら少しは違うことは分かっていた。お互いに考えていることを言い合って、そこから何かが生まれてくるのだろうが、つかさはこの話を晴美にする気はなかった。
 もし話をしていたとすれば、きっと会話に花が咲いたに違いない。しかし、その結果がどうなるかと想像すると、つかさにとってありがたい結果にはならないように思えてならなかった。その思いに怖さを感じ、
――一番知られたくない相手は晴美なんだ――
 と感じるようになったのだ。
 親友に対して秘密を持つというのはいかがなものかと思うのだが、一番身近な人間にほど知られたくないと思っていることもあるだろう。本当の自分を自分なりに納得していることを、身近な人に違う自分を看破されることで崩されるのが一番怖いと思っている。
 人によっては、親友なのだから、自分にとって悪いことをするなどありえないと思っている人もいるかも知れない。しかしそれはあまりにも自分本位の考えで、相手が何を考えているのかを考えきれない人が感じる発想でしかないのではないだろうか。
 つかさはそんな自分の思いを相手に悟られたくないという思いから、自分の中に結界を作ってしまった。晴美にもその意識はあるようで、
――つかさは時々自分の殻に閉じこもることがあるんだわ――
 と感じていた。
 ただ、つかさも晴美に対して同じことを感じていて、晴美に感じているのは、
――何かを怖がっているようだ――
 という思いだった。
作品名:表裏めぐり 作家名:森本晃次