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短編集44(過去作品)

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 そう感じる根拠は年下に慕われたいと思う心にある。小学生の頃はいじめられっこだった江川氏、女性を見る目も男性を見る目も大差はない。相手の面白がっている顔が憎らしいと思うがどうすることもできなかった。
 反発心は持っているのだが、逆らって口で叶う相手ではないと思ってしまう。言い訳できないでいると、相手の言い分をすべて認めたことになるのだろう。そうなると情け容赦などあろうはずもない、江川氏は孤立無援だった。
「お前はどうして何も言わないんだ。逆らうこともしないし、そのくせ、人の言うことを聞かないからたちが悪いんだぞ」
 親切心からだろうか。そう進言してくれる友達もいた。しかしいじめられることに慣れてくると、人の進言など聞く耳を持たない。右から左へ流れるだけだ。
 反発心が強ければ強いほど、まわりの人間が自分と違う人間に見えてくる。最初は、
――皆の方がおかしいんじゃないのか――
 と思っていても、ある程度まで来ると我に返るようだ。自分の方がおかしくて、まわりから浮いていることに気付くと、あとは強情な自分が顔を出す。
 人の忠告を受け入れるわけではなく、自分の考えを正当化しようとする。しかし頭のどこかで無理をしている自分を感じていて、それがジレンマになっているのではないだろうか。
 女性に興味を持ち始めるのが遅かったのは、
――まわりと同じでは嫌なんだ――
 という気持ちが、強かったからに違いない。
――自分の持っていないものを持っている女性が好きだ――
 と感じたのは中学卒業寸前だっただろう。人と一緒では嫌だということは、自分を無意識に否定しているのではないかと感じることでもあり、自分にないものを持っている人に興味を持つ結果になったとしても無理のないことだ。
 高校は男子校だった。望んで男子校にしたわけではなく、たまたま自分の学力のレベルから無難に考えた進路がたまたま男子校だったというだけのことである。男子校だからこそ女性に対して異常なまでに興味を示すやつもいたが、基本的にそんな考え方を受け入れる江川氏ではない。
 だが、いつも一人でいることを当たり前だと思っていた江川氏に、時々気持ちの変化があった。変化といっても、継続しているわけではなく、寂しさがこみ上げてくる時に感じる思いである。
――人は人、自分は自分――
 と考えていたが、クラスメイトの連中の、普段は見せたことのない笑顔を見た時は、さすがに取り残されたような気分に陥った。それは彼女と一緒にいる時である。男子校なので、女性っけのない学校で見せたことのない笑顔を、未知の世界である女の子の前で見せている。まったく知らない世界を見せ付けられたようで、取り残された気分がどこから来るのか、最初は分からなかった。
 時々襲ってくる寂しさが、ただ彼女がほしくて寂しいだけだと思っていたが、それだけではないようだ。
 最初こそ時々感じていた思いだったが、そのうちに間隔が短くなってくる。今、自分が人恋しいのか、一人でいたいと感じているのか、どちらなのかが分からなくなってくるのだ。
 自分が分からなくなる時、それが鬱状態への入り口であることに気付いたのは、それからかなりあとになってからのことだった。
――ごく最近のことじゃないかな?
 自分でも気付いた時期がいつだったか、ハッキリと分からなかった。だが、今なら分かる気がする。
――きっとあれは喫茶店で出会って付き合った彼女と別れた時ではなかったか――
 と感じる。
 そのあとに襲ってきた何ともいえない虚空のような思い、心の中にポッカリと空いてしまった穴をどうすることもできないでいた。
――寂しかったからだろうか? いや、それだけではあるまい――
 自問自答を繰り返す。
 とにかくハッキリとしない別れだった。今でも心に残っているのは別れの理由が分からないからだろう。
――原因が自分にあるはずがない――
 という思い込みが、ハッキリしない理由の一つだったことに最近気付いた。
 自意識過剰だったのかも知れないが、自分のことを一つでも否定してしまうと、すべての否定に繋がりそうで怖かった。
 寂しさが自分の臆病さを表していて、そこから鬱状態に入り込むのではないだろうか。小さな綻びに気付くと、そこを押し開くように広がっていく……。押し開いた世界の向こうには鬱の世界が見えてくるように思える。
 見える世界は同じでも、見え方が違うのだ。色は全体的に黄色掛かっていて、昼間はすべてが黄色っぽく見える。しかし夜になるとハッキリと見えてくるのが不思議なのだ。それは精神状態が及ぼす錯覚なのかも知れない。
 寝る前が一番普通の状態に戻れて、起きてからがまた鬱状態というその時に直面している現実に引き戻される。そんな状態が見えるものすべてに影響しているのだろう。
 寂しさが極限まで達すると、鬱状態に陥ることは分かっている。だが、寂しいだけで鬱状態に陥るとは思えない。一人でいることが普通だと思っている時期に、
――鬱状態に陥りそうだ――
 と感じてしまうこともある。
 鬱状態への入り口が見えるわけではないが、鬱状態に陥りそうな予感が身体全体を支配する。胸のあたりがむず痒く感じ、何かの予感で気持ちがいっぱいになる。
 そんな時は少しでもマイナス思考になれば、綻びは一気に加速して、予感が悪い方へと広がっていく。クモの巣の綻びを解いていくようだ。
 頭の中にクモの巣が浮かぶのは、目を瞑っている時間帯が鬱状態の時に比較的多いからかも知れない。
 目を瞑ると瞼の裏に浮かぶ世界……。そこには赤み掛かった世界が広がり、クモの巣状に広がる小さな無数の線が、毛細血管のように縦横無尽に走っているように見える。
 クモの巣というと、細くて弱い印象があるが、鬱状態の時は、少し太く頑丈に感じられる。それだけ精神的に弱くなっていて、流れに任せてしまいがちなのだろうが、意外と鬱状態の時の方が自分を理解していたりする。
 最近の江川氏は、自分で何事にも気付くのが遅いように思えた。しかし、これといって困るわけではないので、事なきを得ているが、そのうちに何か困ったことが起こりそうな気がして心配もしている。
「お前は考え込みすぎるからな」
 と言われるが、まさしくその通り。考えすぎてなかなか決断できずに困ることも少なくない。
――やはり大人になるにつれて臆病になってくるせいであろうか?
 そんな歌の文句を聞いたことがある。女性を歌ったものだったが、女性にだけ言えるものではないだろう。男も女も大人になればそれだけ決断を必要とする時が多くなる。それまでの経験が決断力に大きな影響を与えるのだろうが、
――果たしてしっかりとした決断ができるほど、今までの経験を消化できているものだろうか――
 と考えれば不安になるのも当然である。
 那美に会えると思っている一週間後が待ち遠しくてたまらなかった。まるで一ヶ月のような気分でいる時に那美から連絡があり、
「ごめんなさい。しばらく会えないの」
 というではないか。理由を問いただしてみた。最初はいろいろと言い訳のようなものをしていたが、あまりにも一生懸命に諭そうとする江川氏に対し、さすがに業を煮やしたのか、
作品名:短編集44(過去作品) 作家名:森本晃次