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二重構造

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――あの男が男色だったのを気持ち悪いと思ったけど……
 綾は、自分が優香に惹かれていくのを感じていた。
 だが、優香は綾を自分のものにしようとはしない。女性同士というのはありえないと思っているのか、それとも、綾に対してはそんな感情が沸いてこないのか、綾には分からない。分からないだけに、綾には神聖に見えたのだ。
――この人についていけばいいんだわ――
 綾は、自分のこれから進むべき道がハッキリと見えた気がした。
 優香の冷たい雰囲気も、
――他の人に対してのものとは違うんだ――
 と感じた。
 綾は優香の、
「優秀な助手」
 になった。
 まわりから見ると、気持ち悪いほど密接な関係に見えた。
「あの二人、できてるんじゃないか?」
 研究員というのは、あまりまわりを気にしない人が多いが、中には、まわりが気になって仕方のない人もいる。特に、こんな閉鎖的なくせに、誰もが何を考えているか分からない魑魅魍魎が渦巻いているようなところでは、気が狂ってしまいそうに感じている人もいたりする。
 そんな人たちは、お互いに引き合うものがあるようで、すぐに、
――この人は、自分と同類だ――
 と、いつしか団結心が芽生えていたりしたものだ。
 同類が集まると、まわりがいくら魑魅魍魎の住処だとしても、自分たちの結束には、何ら関係のないものだという意識が芽生えるもののようで、魑魅魍魎とはまったく違った勢いを自分たちの中に持とうとするのだった。
 だが、その「鉄の団結」には、一点の曇りもあってはいけないのだ。一人でも、気持ちが離れてしまうと、すぐにその人を切り捨てるような対応をしないと、全体的に腐ってしまう。彼らの「鉄の鉄則」は、結構強い絆で結ばれていて、本当に気持ちが揺らぐ人がいれば、必ず誰かが気づくようになっていた。
 気持ちが離れてしまった人を、「丁重」に切り捨てると、また静かに「鉄の団結」を修復する。それを繰り返しながら、研究所に巣食う魑魅魍魎に敢然と対抗しているのだ。
 魑魅魍魎も、鉄の団結集団も、それぞれに勢いが衰えることはなかった。
 優香も綾も、お互いに自分たちが魑魅魍魎の中にいることを自覚していた。
 優香は、研究所に入所した時から、すでに研究所の中の異様な雰囲気に気づいていて、自分が魑魅魍魎の中にいることを自覚していた。
 魑魅魍魎と言ってもまわりから見て、そう見えるだけで、中にいれば、
「まわりを意識することなく、比較的自由に自分のペースで、研究ができる」
 というだけのことだった。
 凡人から見れば、学者や有識者などというのは、自分たちとは違う人種であるということを嫌でも思い知らされるが、思い知らされても、心のどこかで納得できないものであった。
 そのため、彼らを雲の上の人として、自分たちと一線を画するような存在にしてしまう。
 そういえば、神話の世界でも、
「登場する神様は、皆嫉妬深かったり、猜疑心が強かったり、神の領域に人間が近づくことを恐れ、『出る杭は打たれる』の論理で、優秀な君主に対して、難癖をつけ、彼らの未来を、街ごと葬り去ったりするじゃないか」
 神話を読んでその理不尽さに、憤りを感じている人の意見として聞いたことがあった。
 さらに彼は、
「聖書にだって、『ソドムの村』や『ノアの箱舟』のように、一部の人は助けるが、大多数の人は、滅ぼすという選択があるではないか。神と言ったって、一皮むけば、魑魅魍魎のようなものなんじゃないか」
 かなり乱暴な意見だが、それに対して反論できるだけの力はなかった。
 少しでも逆らう気持ちがあるのであれば、いくらでも反論できるだけの自信はあった。
「神なんて、しょせん孤独で、人間が自分たちに近づくことを恐れ、避けようとしているんだ」
「でも、人間を作り出したのは、神なんじゃないの?」
「それも怪しいものだよ。実際に神の存在を人間が信じているのかどうかも怪しいものだ。神話や聖書などの書物はあっても、神について語る本はない。神から『自分たちを描いてはいけない』と言われているのか、それとも、本当に神はいないのか。俺は、いないと思うんだよな」
「どうして、そう思うの?」
「だって、今までの人間の歴史を考えてくれば分かってくることも多いんだけど、人間というのは、必ず争いをしなければいけないという本性を持っているんじゃないかな? それが戦争であったり、平和な時代であれば、競争であったりするわけだよ。そのためには、『仮想的』が必要だよね。古代の人たちにとって、神という存在は、その『仮想的』だったんじゃなかな?」
 話を聞いていると、
――なるほど――
 と思えてきた。
 優香はこの頃から、『仮想的』という発想を思い描いていた。そこには、世の中の「二分性」というものが見え隠れしていた。光と影であり、表と裏であり、そして昼と夜の発想……。
 ここまでは、あすなの発想と似ていたのだが、優香の発想はそこで終わらなかった。
 あすなの場合も、本当は「二分性」という結論を得るまでに、その先の発想をしてみたことがあった。しかし、あすなの中で結局その後、堂々巡りに入り込んでしまったことで、結論として「二分性」が残ったのだ。
 優香は、あすなの存在を知っていた。もちろん、S研究所に入り込むことはできるわけもなかったので、彼女がどんな研究をしているのかまでは分からなかった。だが、綾が慌てて持ってきた週刊誌の記事に書かれている内容は、優香には最初から分かっていた。それも、かなり詳しいところまで分かっていたのだ。
 優香もすでに自分の研究を完成させようとしていたが、あすなの研究が気にならなかったと言えばウソになる。
 優香の研究は最終段階に入っていて、あすなの研究結果に左右されることはない状態ではあったが、他の人に自分があすなの研究結果を知っていたことを悟られないようにしなければいけなかった。
 元々優香は、人の研究などに興味があったわけではない。
 綾が勝手に調べてきて、
「ライバルの研究内容を盗む」
 という暴挙に走ったのだが、優香は、そのことを諫めるつもりはなく、せっかく盗んできた研究結果に対し、見ることを「丁重」にお断りするという態度に出たのだ。
 なぜ綾がそんなことまでしたのかということを、優香は考えることはできなかった。
 自分の研究に精いっぱいで、まわりのことに気を配ることをしたくないという思い、本当であれば、その思いを察してくれるのが綾だったはずなのに、
――どうしてこんな暴挙に出たのか?
 という段階までしか、優香は頭を働かせることができなかった。
 元々、頭の回転は早い方で、研究においてだけではなく、人間関係についての頭の回転も早かった。
 本当であれば、どちらかに長けているのが普通なのだが、優香の場合はどちらにもたけている。ある意味「天才」の部類に入るのではないだろうか。
 優香は子供の頃から、
「あなたは、天才だわ」
 と言われることが多かった。
 しかし、子供の頃に天才児呼ばわりされた子供というのは、たいてい、成長するにしたがって、天才の化けの皮が剥げてくるものである。
作品名:二重構造 作家名:森本晃次