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聖夜の伝染

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 という風に見えたようだ。男心をくすぐるというのはこういうことをいうのだろうと自分で分かるようになるまでに、まだ少し時間が掛かっていた。
 気が弱いと言っても、それは引っ込み思案なところが表に出ているので、そう見えるだけで、高校生になってくると、さほど気の弱さを感じさせることはなくなっていた。気が弱いと感じるのは本人の勘違いであって、まわりはそうは思っていない。悪い意味で、
――男性に対して、思わせぶりな態度を取る――
 と思われていたようだ。
 そんな恵美も高校生になると、女性の友達ができた。
 彼女は、恵美のことを、慕っているように見えたが、実際には恵美を利用していたのだ。恵美は引っ込み思案というよりも気が弱いと、オブラートに包まれた表だけを見て判断していたので、彼女を表に出すことで、自分が影から操ろうと思っていたのだ。
 恵美は、そんな彼女の気持ちにすぐに気が付いた。気が付いて、逆利用しようと思っていた。引っ込み思案の自分の背中を押してくれる人を探していたこともあって、友達に背中を押してもらえれば、何かあっても自分が悪いわけではないという言い訳を自分にできるからだと思っていた。
 だが、かといって恵美が計算高い女性だというわけではない。確かに利用しようという気持ちはあるが、それは、結果的にそうなっただけで、言い訳にしても、本心からではなかった。それこそ自分を納得させるだけのもので、誰も恵美がそんなことを考えているなど、思いもしなかった。
 高校二年生になる頃には、恵美に寄ってくる男性を吟味できるようになり、嫌いな人に対して、さりげない態度で相手に分からせることができるくらいになっていたのだ。
 恵美が友達になった女の子は、自分のことを隠すことなく話す人だった。自己主張が激しく、人によっては嫌いだと思っている人もいるようだが、恵美は彼女のことを嫌いではなかった。
 最初は、それほど意識していなかったが、相手の方が、恵美を意識しているようで、意識されると、自分も放ってはおけなくなるタイプの恵美は、彼女を無視することができなくなっていた。
 恵美は人の性格を判断する時、まず相手の顔を直視するようにしている。中には睨みを利かされたみたいだとして、すぐに恵美を嫌いになる人もいるが、恵美の視線で見つめられると、金縛りに遭う人が多いようで、却って気持ち悪く思い、気にはなっても、距離を縮めようとする人は限られてくる。
 そんな中でも恵美のことを意識してくれる人は数少ないながら、素直な気持ちになれるようで、
「恵美とお友達になれる人は、本当にいい人なのかも知れないわね」
 皮肉とも取れそうな言葉を吐くその友達は、自分もその一人だということを暗に匂わせながら、気持ちが通じ合っていることを会話の中で終始アピールしているようだった。
 恵美にとって友達が増えることは、それほど重要なことではない。いたずらに友達を増やしても、それは後で収拾がつかなくなることを意味していて、整理整頓の苦手な恵美にとって、それはあまりありがたくないことだった。
 女の子なのに、部屋はあまり綺麗にしていない。特に家族と住んでいた頃は、散らかりっぱなしだったが、大学に入って一人暮らしを始めると、家にいた頃ほど、汚くはなかったが、整理整頓ができているとは、お世辞にも言えなかった。
 一つは、モノを捨てられない性格だからだ。
 捨ててしまったものの中に、本当に必要なものが混じっているかも知れないと思うと捨てることができない。子供の頃から、親に反発心を持っていたこともあって、
「部屋を片付けなさい」
 と言われると、意地でも部屋の掃除をしなかったものだ。それが災いして、整理整頓ができなくなった。要するに、言われれば急いで済ませてしまうくせがついてしまったことで、捨てるものを吟味せずに、同じ種類のものを一か所に固めることで、掃除したかのように見せていただけなのだ。
 それは大人になっても変わりない。一人暮らしを初めて、それほど散らかっていないのは、あまりモノを置かないようにしただけのことだった。モノを置かないと散らかることもない。ただそれだけのことだったのだ。
 だから、一人暮らしを初めても、誰も自分の部屋に呼んだことはない。一度友達を呼んだことがあったが、その友達が二度目からは遠慮するようになった。その人から見れば恵美の部屋は、訪れるに足りる部屋ではないということなのだ。
 整理整頓ができない恵美だったが、それは友達においても同じだった。特に相手は生身の人間、それぞれに性格も違うので、対応の仕方も違ってくる。軽く付き合う程度の人ならいいかも知れないと思ったが、それでも、一つの言動が相手に与える気持ちのデリケートな部分に触れないとも限らない。そうなると軽い気持ちで話もできなくなる。友達を増やすことは、恵美にとって、実家の自分の部屋を思い起こさせることになるということを感じていた。
 整理整頓ができない恵美だったが、そんな中でできた友達は、本当にいい友達なのかM知れないと、以前言われた言葉を自分に言い聞かせて噛み締めていたのだった。
 中学時代から、高校時代、どちらかというと、暗い人生だったと思う。友達もいなくて、いつも一人、しかし、友達ができてから一人になった時、中学時代を思い出すと、暗かったが、自由だったような気もしていた。中学時代に戻りたいという気持ちにはまったくならなかったが、自由がいいのか悪いのか、ハッキリと分かりかねていた。
「自由という言葉を穿き違えるな」
 と、高校時代の先生から言われたことがあったが、妙に先生の言葉に信憑性を感じることができた。信憑性というよりも、経験に基づいた言葉に聞こえて、実感はないが言葉に重みは感じられた。
――その時は忘れるかも知れないが、将来、何かの時に思い出すことがあるのかも知れない――
 と感じた。
 将来思い出すことというのは、実感がないだけで、自分の納得したことを言うのではないかと思った。意外と今までに生きてきた中で、結構そういう意識で忘れてしまったものというのは多かったことだろう。
 高校時代にできた友達から、高校二年生の時、一人の男性を紹介された。
「私はいいわよ」
 と言って断ってみたが、まんざらでもなかった。ドキドキした気持ちを初めて感じた時だったかも知れない。
 彼は、友達が紹介してくれた男性の割には、話し方も緊張が漲っていて、逆に恵美の方が落ち着いているのではないかと思うほどウブに見えたのだ。きっと、恵美にはこれくらいの男性でいいという思いがあったのかも知れない。
 彼は、ウブではあったが、性格的にはしっかりしていた。
 細かいところに気は付くし、人の面倒見がいいことで、人望も厚かった。恵美の場合はいい加減なところがあるが、生来の可愛らしい素振りと、雰囲気で、
――あばたもエクボ――
 と言われるように見られていたが、彼は正反対だ。第一印象はどこか頼りなさげなのに、実際には、これ以上頼りになる人はいない。これほど安心できる人はいないだろう。
 そう思うと、自然に彼に対して委ねる気持ちが強くなる。
作品名:聖夜の伝染 作家名:森本晃次